オープニング

 ターミナルに、「無限のコロッセオ」と呼ばれるチェンバーがある。
 壱番世界・古代ローマの遺跡を思わせるこの場所は、ローマ時代のそれと同じく、戦いのための場所だ。
 危険な冒険旅行へ赴くことも多いロストナンバーたちのために、かつて世界図書館が戦いの訓練施設として用意したものなのである。
 そのために、コロッセオにはある特殊な機能が備わっていた。
 世界図書館が収集した情報の中から選び出した、かつていつかどこかでロストナンバーが戦った「敵」を、魔法的なクローンとして再現し、創造するというものだ。
 ヴォロスのモンスターたちや、ブルーインブルーの海魔、インヤンガイの暴霊まで……、連日、コロッセオではそうしたクローン体と、腕におぼえのあるロストナンバーたちとの戦いが繰り広げられていた。
「今日の挑戦者はおまえか?」
 コロッセオを管理しているのは世界図書館公認の戦闘インストラクターである、リュカオスという男だ。
 長らく忘れられていたこのチェンバーが再び日の目を見た頃、ちょうどターミナルの住人になったばかりだったリュカオスが、この施設の管理者の職を得た。
 リュカオスは挑戦者が望む戦いを確認すると、ふさわしい「敵」を選び出してくれる。
 図書館の記録で読んだあの敵と戦いたい、という希望を告げてもいいし、自分の記憶の中の強敵に再戦を挑んでもいいだろう。
「……死なないようには配慮するが、気は抜かないでくれ」
 リュカオスはそう言って、参加者を送り出す。
 訓練とはいえ――、勝負は真剣。
「用意はいいか? では……、健闘を祈る!」

●ご案内
このソロシナリオは、参加PCさんが地下コロッセオで戦闘訓練をするというシチュエーションで、ノベルでは「1対1で敵と戦う場面」が描写されます。

このソロシナリオに参加する方は、プレイングで、敵や戦闘内容の希望をお聞かせ下さい。敵は、
・過去のシナリオに登場した敵(自分が参加していないシナリオでもOKです)
・プレイヤーであるあなたが考えた敵(プレイングで外見や能力を設定できます)
のいずれかになります。
ただし、この敵はコロッセオのつくりだすクローン体で、個体の記憶は持たず、会話をすることはできません。

品目ソロシナリオ 管理番号1155
クリエイター月見里 らく(wzam6304)
クリエイターコメント0世界にてソロシナリオを御送り致します、月見里 らくです。
詳細はOPを参照に、過去シナリオに登場した敵を希望の場合はシナリオタイトルを御明記御願い致します。
なお、重火器系の描写は当方得手では御座いませんので、御希望頂いた場合は出来るだけ添うように尽力致しますが御了承を。
 では、プレイングを御待ちしております。

参加者
レナ・フォルトゥス(cawr1092)ツーリスト 女 19歳 大魔導師

ノベル

 コロッセオ――。
 目を引く艶やかな赤髪を揺らし、レナ・フォルトゥスは眼前に出現した敵を見据えていた。
「こんな強敵すら、再現可能だなんて此処の施設は凄まじいわね……」
 長い両耳に浅黒い肌は、典型的なダークエルフの特徴だ。レナと並んでも遜色の無い美しい顔立ちをした男性だが、そこに生き物らしさが感じられないのは無表情故か、コロッセオが生み出したクローン体の所為か、それとも目の前に居る相手が纏う冷気の為なのだろうか。
 魔王軍七星将・水星のレグナム――炎系統の魔法を得意とするレナとは対照的に、氷や水系統の魔法を得意としている。
 レナが、否、レナ達がロストナンバーとして目覚める前、魔王の軍勢相手に立ち回った時に対峙した人物だ。レナをはじめとした仲間達四人と共に立ち向かい、何とか倒した強敵だった。
 それに掛かった時間は、何と八時間。正しく、死闘と言っても良い戦いだった。
 その相手が、本人ではないとはいえ目の前に居る。しかも、今は共に戦った仲間は周囲に居ない。
 完全に、レナ自身の力だけで挑まなければならない――それを強く自覚し、レナはトラベルギアである星杖を握り締める。
「この敵を相手に油断は出来ないわ。最初から全力よ!」
 勿論、手加減などという事は一切考えない。威勢も良く、呪文を唱える。
「ギガ・ファイアボール!!」
 手持ちの魔法の中でも、上位に属する炎属性の魔法。しかしレナが魔法を放つと同時に、敵も魔法を放って来る。
「ギガ・アイスキューブ!!」
「え!?」
 氷の上位魔法。ほぼ同時に正反対の属性の魔法がぶつかり合い、熱気と冷気の双方を撒き散らして周囲に霧散する。
 炎と氷によって生まれた蒸気がやがて晴れると、その先に敵が何事も無く佇んでいるのが見える。これといって、ダメージらしいものが与えられた様子は見えない。
「相殺ですって……! 良いわ、そうこなくっちゃ倒し甲斐が無いもの」
 流石、一筋縄ではいかない。自らの魔法を相殺され、レナは驚きながら自分を奮い立たせて次なる攻撃を仕掛ける。
「ファイヤーストーム!」
「アイスストーム!」
 再びの相殺。実力は今の所、互角という所だろうか。中々有効打を与えられない。
 もっと強力な魔法でなければ、敵には有効にならないのか。あまり時間を掛けたくない為に、レナは再度呪文を唱え直す。
 これなら、効く筈。だがレナの呪文が完成するよりも早く、敵の詠唱が響いた。
「コキュートス!」
「何ですって、しまっ……!」
 敵の方が早かった。
 視界が霞む。吐き出した息が白くなるだけでは済まされない。身体に霜が張り付き、周囲を冷気が圧倒する。
「アイスキューブ!」
「きゃああぁっ!」
 そこへ、更に追い打ちが掛かる。咄嗟に腕で攻撃を庇おうとするも、寒さで上手く身体が動かずにまともに受けてしまう。
 何とかしなければ。寒い、と第一に浮かんでしまう思考の中、危機感を滲ませて辛うじて思い返すも寒波でそれ以上を、否、それすらも考えられなくなる。
 このまま負けてしまうのだろうか――そう、思い掛けた時。
 ――諦めるな。諦めたら、全てが終わる。
 唐突に、レナの頭の何処からかで声が響く。
 低く厳かで、力強い。覚えがあるような、無いような――果たして誰なのか、疑問に思って考えようとした所で止める。
「そ……そうよ! 諦めるなんて、して堪るもんですか!」
 諦めて、負けを認めるなど、大魔導師――アークウィザードの名が廃る。それに何より、レナ自身の矜持が許さなかった。
 体温が奪われて行くのを感じる。その所為で、指先から身体の芯まで感覚が無いように思える。しかし、胸の内から灯る「何か」は酷く熱く滾っていた。
 息を吸い込む。肺に、凍て付くような冷気が入り込んで来る。それでも朗々と口から紡ぎ出すのは、必殺の呪文。
「あらゆる全ての天地を輝かす太陽よ、その力を我々の為に、与えたまえ。そして、闇をその輝きにより、退けたまえ。エン・ファルテジナ・アバン・ジ・アルス・ノヴァ・クォ・ヴァディス・ティ・ヴァルカン・サン! 発動!! ソル=プロミネンス!!」
 ――これで、行くわ!
 今は、自分を信じる。それだけで良い。呪文と共に有りっ丈の魔力を星杖に込める。
 レナの頭上に六芒星と周囲に古代文字を配させた魔法陣が浮かび上がり、周囲に強烈な熱量が満ちる。
「さぁ、太陽の炎で、焼き尽くされなさい!!」
 呼び出すのは、全てを焼き尽くす太陽。コロッセオを、視界を覆わんばかりの眩しさが埋め尽くす。
 狙う必要など無い。狙いを付けるまでも無い程に上空の魔法陣から太陽が顔を出し、それが纏う焔が敵に襲い掛かる。
 纏わり付いていた冷気も霜も圧倒的な熱量によって、霧散する。劫火のように周囲を焔が包み、視界が戻ったその数瞬後には、まるで何も無かったかのように敵は掻き消えて無くなっていた。
「……ふう。何とか、勝てたのかも。……疲れた、わね」
 吐息と言葉が同時に出ると、一気に尋常ではない疲労が身体に押し寄せて来る。恐らく今まで、極度の緊張の所為で感じる疲労が普段よりも抑制されてしまっていたのだろう。それが今になって来るのは、終わったという事を頭が認識して安心し切ったからという事か。身体には、薄らと汗が滲んでいた。
 今回戦ったのは、コロッセオが産み出したクローン体。過去とは、場所も状況も違う。
 それでも、力の程は記憶と全く同じだった。
 何故勝つ事が出来たのか――嘗て共に戦った仲間達なら、一体何と言うのだろう。過去に戦った経験があったから、と言うかもしれない。きっと、それもあるだろう。
「ううん、違うわ。あたしの腕が上がったから、よね」
 そう言って緩く首を振ると、レナは顔を上げる。まだ少し疲れは滲ませながらも、そこには元通りに強気な表情が戻っている。
 そして立ち上がると、燃えるような赤い髪が翻った。

クリエイターコメント 御待たせ致しました、ソロシナリオを御届けさせて頂きます。
 今回はオリジナルの敵との事で、少々捏造も加えさせて頂きましたが宜しかったでしょうか。呪文など、とても興味深く拝見させて頂きました。
 最後に、この度はソロシナリオに御参加頂き誠に有難う御座いました。
公開日時2011-02-18(金) 23:50

 

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