ふと気配に気づくと、つぶらな瞳に見つめられている。 モフトピアの不思議な住人――アニモフ。 モフトピアの浮島のひとつに建設されたロストレイルの「駅」は、すでにアニモフたちに周知のものとなっており、降り立った旅人はアニモフたちの歓迎を受けることがある。アニモフたちはロストナンバーや世界図書館のなんたるかも理解していないが、かれらがやってくるとなにか楽しいことがあるのは知っているようだ。実際には調査と称する冒険旅行で楽しい目に遭っているのは旅人のほうなのだが、アニモフたちにしても旅人と接するのは珍しくて面白いものなのだろう。 そんなわけで、「駅」のまわりには好奇心旺盛なアニモフたちが集まっていることがある。 思いついた楽しい遊びを一緒にしてくれる人が、自分の浮島から持ってきた贈り物を受け取ってくれる人が、わくわくするようなお話を聞かせてくれる人が、列車に乗ってやってくるのを、今か今かと待っているのだ。 ●ご案内このソロシナリオでは「モフトピアでアニモフと交流する場面」が描写されます。あなたは冒険旅行の合間などにすこしだけ時間を見つけてアニモフの相手をすることにしました。このソロシナリオに参加する方は、プレイングで、・あなたが出会ったのはどんなアニモフか・そのアニモフとどんなことをするのかを必ず書いて下さい。このシナリオの舞台はロストレイルの、モフトピアの「駅」周辺となりますので、あまり特殊な出来事は起こりません。
ロストレイルから行くのも戻るのも、どちらもその世界の「駅」。モフトピアで任務を終えたばかりのジュリエッタ・凛・アヴェルリーノは、きょろきょろと辺りを見回していた。 「駅」は鼻の先なので、別に迷っている訳ではない。ジュリエッタは今、自らのセクタンであるマルゲリータを探していた。 「マルゲリータの奴め。雷を撃ち落とす位置を誤って翼を焦がしかけたからといって、無言で怒って飛んでいってしまうとは……わたくしが悪かったのは認めるが、別にわざとやったわけではないんじゃ。モフトピアで危険に巻き込まれることはないじゃろうが、時間も迫っておる。早く見つけねばのう」 口から漏れるのは、このような事をしているに至った原因。それは、先程済ませたばかりである冒険旅行の一幕にある。 故意ではなく、うっかりで起こってしまった事だった。けれども、それで何も無かったという事にはならない。拗ねてしまったらしいマルゲリータは、ジュリエッタを置き去りに何処かへ飛んでいってしまっていた。 チャイ=ブレの分身ともいえるセクタンは、放って置いても勝手にパスホルダーに戻って来る。しかしながらだからといって、そのままロストレイルに乗るのも気が引けた。 「駅」の周辺には、トラベラー達を心待ちにしてか沢山のアニモフ達が集まっている。見るからにもふもふで愛らしい外見のアニモフ達はジュリエッタも微笑ましい気分になるのだが、今はマルゲリータを探している最中。ぬいぐるみのような見た目のアニモフ達の中に自らのセクタンが混じっていやしないかと歩き回っていると、不意に足元に柔らかい感触がぶつかった。 「?」 一体何だろう。不思議に思ってジュリエッタが足元を見ると、そこにはピンク色のフクロウっぽいアニモフが居た。 ぬいぐるみのような外見をしているものが多いモフトピアのアニモフ、そのアニモフもそれに違わずマスコットのような外見だったがセクタン――しかもオウルフォームのものにそっくりだった。 「なんと、色以外はそっくりじゃ! のう、ちと尋ねるが、そなたと同じ姿形の者を見なかったかのう?」 まるでうり二つ。生き別れた兄弟姉妹かと、否、そんな事はありえないのだがつい思ってしまったりもしつつ、ジュリエッタはそのフクロウ型のアニモフをひょいと抱きかかえる。 アニモフはセクタンそっくりのつぶらな瞳をぱちくりさせながら、ジュリエッタの問い掛けに小首を傾げた。 「そっくりなの?」 「そう、そっくりなのじゃ」 そっくり、と何度か繰り返しながら、アニモフはぱたぱたと小さな羽を無邪気にばたつかせる。 「マルゲリータは本当に何をしておるのか……迷子にでもなっておるのかのう」 「まいご?」 「そうじゃ。そなたは何をしておるのじゃ?」 「まいごー」 同じ事ばかり、オウム返しのような事を言っているが一応の意味は理解しているらしい。つまり、このアニモフは迷子なのだろう。それにしては危機感が無いのは、平和なモフトピアらしいと言える。 放っておいても大丈夫そうではあるが、マルゲリータの行方を他のアニモフ達にも聞きたい所なのでこの迷子アニモフの仲間を探しがてらにするのも良いかもしれない。さわり心地もオウルフォームのセクタンとそっくりなアニモフを、ジュリエッタはもふもふしつつ抱き直した。 「ふむ……ここで会うたのも何かの縁じゃ。マルゲリータを探しながら、そなたの仲間の所へ共に行こうぞ」 「いっしょー! いこー」 こうして言葉を発していなければ、本当にセクタンと見間違えかねない。緩く首を傾げたジュリエッタに対してアニモフは何とも暢気な様子だったが、それはそれでよしと歩き出した。 「駅」の近くには、小さな森や公園のような場所もある。このアニモフが来たのは、多分その辺りなのだろう。離島からわざわざ来た訳ではないだろうと踏みつつ、ふわふわとした雲の上を歩く。 「どうしちゃったのー?」 「マルゲリータと……わたくしのセクタンと喧嘩をな、してしまったのじゃ」 「けんか? だめだめー」 悪意無く、けれども駄目、と言うアニモフにジュリエッタも全くじゃと溜め息を吐いてしまう。 「そうじゃのう……そなたの仲間はどこから来たのじゃ?」 「どこ? ここー?」 「ここ? そこ?」 「そこー!」 ぱたぱた、と羽が小さく上下に振られる。何処此処其処、という傍目には分かり難い会話を繰り広げながら、辿り着いたのは「駅」から然程離れていない大きな宿り木。そこでは、宿り木の枝に羽を休めさせながら寄り添い合うフクロウ型のアニモフ達が居た。 ジュリエッタが抱えるアニモフと、此方もそっくり。ただ、色はピンクだけではなくオレンジや黄色など様々だ。ベタに鼻ちょうちんも膨らませて御昼寝をしているフクロウ型アニモフの姿に和やかな気持ちになっていると、その群れの中で覚えのあるのを見付けた。 「マルゲリータ!」 こんな所に居たのか。声を上げると同時、抱えていたアニモフがひょいと地面に降りて仲間達の所へ駆け寄っていく。ジュリエッタも遅ればせながら、その後に続くようにしてぱちぱちと目を瞬かせているマルゲリータの方に近付いた。 「マルゲリータ、のう、帰ってきてくれまいか。すまなんだ……今後はなるべく気をつける。わたくしはそなたの目が必要だし、何より大事な相棒じゃ」 「いっしょにきたのー」 「けんかしちゃだめー」 「だいじ、だいじ」 何時の間にやら、ジュリエッタとマルゲリータの周囲をアニモフ達が心配そうに見守っている。あまり複雑な事は考えられないアニモフ、これでも気を遣っている心算らしい。 マルゲリータはジュリエッタの誠意が伝わったのか、アニモフ達の心遣いが染みたのか、元より拗ねてなどいないのか、どれなのか分からなかったが暫くのったりと首を傾げさせると、ひょいとジュリエッタの胸元に飛び込む。ジュリエッタは突然の事に驚いたものの、抱えるように腕を動かすとマルゲリータは何となく心地良さそうに身を動かした。 「なかなおり? した? した?」 「みたい、じゃのう。そなた達には迷惑を掛けてしまったのう……少ないが、モフトピアに来る前買ったこの砂糖菓子でも……と、マルゲリータ、嘴を出すな、そなたは家に帰ってからじゃ!」 砂糖菓子を取り出すと同時に勢い良く突っつくマルゲリータを制止させつつ、ジュリエッタはアニモフ達に砂糖菓子を渡す。アニモフ達は何だか事情がよくわかっていない様子だったが、貰う方も嬉しいようできゃっきゃと楽しそうにはしゃいでいた。 子供っぽいその様子にくすくすと笑みを零しながら、そろそろロストレイルの発車時刻が迫っているのでと話もそこそこに切り上げてアニモフ達と別れる事にする。元来た道を戻る途中、フクロウ型のアニモフ達が揃って手ならぬ羽を振っていた。 「ありがとー」 「もうけんか、しちゃだめだよー」 送られる言葉に、ジュリエッタはくすりと笑って抱えたマルゲリータに笑い掛ける。 「当たり前じゃ。のう、マルゲリータ?」 それにマルゲリータは、もぞもぞとじれったく羽を動かして同意した気がした。 了
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