どの世界にも「世界最大」と名の付くものがある。 この限られた土地で人々が暮らすマホロバにもそんな場所がいくつもあった。その中に含まれている内の一つが神社だ。 昨年、世界司書のツギメとロストナンバーたちはマホロバに初詣をしに向かったが、その時出向いた椿に彩られた神社は最大というには些か小さなものだった。今年向かう場所はあそこよりも大きい――と、ツギメは言う。「厳かな雰囲気が好きな者はあちらの方がいいのだろうが、今年はマホロバで最大の規模と言われているコトブキ神社に行くことになった。この神社はマホロバの中でも歴史ある場所でな、汚染が進む前から存在しているらしい」「そこでは毎年催しがあって、色んな出店が並んだりイベントが行なわれたりするらしいんです!」 興奮気味に世界司書のササキが力説する。何かと空回り気味だったこの少女もやっと新米の文字が取れ、今では立派に司書の一員だ。とはいえドジは踏むが。 ササキは行きたくてたまらないといった雰囲気ではしゃぐ。「折り紙で作った魔除けの飾りがそこかしこにあって、とても幻想的らしいですよ。自分で作ることも出来るらしいので、皆さんもご一緒にどうでしょうか?」「未だにマホロバ国内は落ち着いてはいないが……この日は何の騒動も起こらない、と世界司書たちからのお墨付きだ。羽は伸ばせる時に伸ばしておいた方がいい」 この数年でツギメはそれを嫌というほど学んだ。 それを抜きにしても楽しげなイベントだ、それに抱負を考えたり初詣をすることで未来に希望を持つことも出来る。 ロストナンバーたちにとって、心苦しい思いをする出来事が数え切れない年だった。それでも未来への道はこの先も続いている。その道を照らす光が少しでも見つかれば、とツギメは思っていた。 それに――「それにな。私もたまには……お前たちと遊びたい」 口の端に笑みをのせて、新年のお誘いを。 仲間と共に、よい年を迎えられますように。●特別ルールこの世界に対して「帰属の兆候」があらわれている人は、このパーティシナリオをもって帰属することが可能です。希望する場合はプレイングに【帰属する】と記入して下さい(【 】も必要です)。帰属するとどうなるかなどは、企画シナリオのプラン「帰属への道」を参考にして下さい。なお、状況により帰属できない場合もあります。http://tsukumogami.net/rasen/plan/plan10.html!注意!パーティシナリオでは、プレイング内容によっては描写がごくわずかになるか、ノベルに登場できない場合があります。ご参加の方はあらかじめご了承のうえ、趣旨に沿ったプレイングをお願いします。
様々な人間、様々な宇宙人が同じ道を歩きながら楽しげな声で会話している。 年を越すということはマホロバにおいても大変めでたいことで、国中が祝いのムードに包まれるのも毎年の恒例だった。 そこに普段は根強く存在している宇宙人への差別も、この日ばかりは目立たず薄れているかのようだ。 母親にわたがしをねだる宇宙人の子供を眺め、心を和ませたジューンは微笑みながら石畳を進む。 と、前方に見知った黄土色の髪の毛を見つけ、駆け寄る。 「ツギメ様!」 ジューンに呼び止められたツギメは振り返り、彼女の姿を目に留めると片手を上げて応えた。 「ジューンか。どうだ、楽しんでいるか?」 「はい、羽を伸ばすには最適ですね」 折角だからとジューンは薄桃色の振袖を身に纏っていた。 その「折角だから」という気持ちはツギメも同じだったようで、彼女も黒色をベースにした振袖を着ている。 「去年のものをそのまま引っ張り出してきただけだがな。ジューンは薄桃か、似合っている」 「ありがとうございます」 「ふむ、まあ私の見立てだともっと華やかな柄や色のものも似合いそうだが――」 ジューンは袖を口元に寄せて笑う。 「これでも明るいものを選んだのですよ。本当はいつもの格好のまま来るつもりだったのですが、ササキ様に勧めていただいたので」 ジューンは去年マホロバへ訪れた時、乳母という自身の立場を鑑みて地味な色合いの着物を着ていた。 その時の着物と比べたら、たしかに今日は明るいものといえる。 なるほど、と納得したツギメは周囲に目を走らせる。 「ところで、そのササキは……」 「それが……先ほどたこ焼きとお好み焼きとフランクフルトとリンゴ飴を食べる、と走って行かれまして……」 「まだ子供だな……」 苦笑するツギメにジューンは切り出す。 「あの、もし宜しければご一緒させていただいてもよろしいでしょうか」 「む? ああ、もちろんいいぞ。その方が私も嬉しい」 二人は並んで歩き始める。 まず何をしたい、というツギメの問いにジューンは周囲に並ぶ出店へ目を向けた。 「お土産もいくつか。ツギメ様はミル様に買っていかれます?」 「そうだな、何かいいものがあれば良いんだが……」 ミルは新年も休まず店を開けると言っていたという。その一方、年越し特別便で旅行に向かう皆を羨ましがってもいた。何か楽しみを共有できるようなものを土産にすれば喜んでもらえるかもしれない。 「ただ、何がいいだろうか。ジューンはどうする予定だ?」 「うちの子と知り合いに厄除けを作るのも良いかも、と思っています」 厄。ミルも苦労することが多かった。贈るのは厄除けでもいいかもしれない。 「では私もそれにしよう、不器用だからおかしな物が出来上がるかもしれないがな」 「ふふ、その時は私がお手伝いします」 厄除けを作れる店を見つけ、二人は暖簾をくぐって入っていった。 ササキによって着替えさせられたのはジューンだけではない。 黄色い振袖を邪魔げに見下ろしているのはルンである。 綺麗なのはいいが動きにくいし息苦しい。なぜ皆こんなものを好き好んで着るのだろうか? 「……ん?」 ふと視線を戻せば、木にもたれかかり人ごみを見ている男性の姿が見えた。 ルンは彼を資料上で知っている。じっと観察していると、道の方から泣き声が聞こえてきた。男性は泣き喚く宇宙人の迷子を保護すると母親を探し始める。 ルンは彼に近づき、長く続く階段を指差した。高低差で人ごみの中からでも見える。 「その子供に生えてる角、同じ角生やした女、居る」 「なに?」 「あそこ。見えない?」 ふむ、と考えてルンは子供をおんぶすると跳躍した。そのまま着地と跳躍を繰り返し、階段近くに降り立つ。 やはり女性は子供の母親だった。何度もお礼を言われながらルンが元の場所に戻ると、男性はまだその場に居た。 「わるいな、本来は我々の仕事なんだが」 「40代、右の顔傷、保護活動……お前、ゼタ・スズハラ?」 む、と男性――ゼタ・スズハラはルンを見る。 「そうだが、知っているのか」 「ルンはルンだ。えーと……宇宙人、対策委員会の……手先?」 どうも説明がうまくいかない。ゼタはルンの言葉を租借し、見慣れない風貌から答えを導き出す。 「……例の超能力集団か?」 「そう、それ! 昔、お前に会ったことある、仲間。お前は、話せる……そうだ」 そうか、と納得した顔でゼタは頷く。 「買かぶり過ぎな気もするがな。お前があの手段の一員だとすると、一応同僚のようなものになるか」 「うん、仲間。イグアの……知らないか。ルンたちも、ここ守る。お前たちも。仲間、知り合い、ほしかった」 「イグアの話は耳にしている。あれは元々こちらからの要請だからな。厄介な宇宙人も居たものだ」 まあ宇宙人は厄介なことの方が多いのだが。 そう言ってゼタはルンに肩を竦めてみせる。普段は緊張した雰囲気を纏っている彼だが、今は祭りの雰囲気もありややフランクになっているらしい。 「あの集団は様々な力を持った者が居るらしいな、お前は何が出来る」 「ルンは狩人。ルンが分かる、狩りと水場だけ」 それは戦場で良い方にも悪い方にも働く。それを今までの経験でルンは知っている。だからこそ補い補われる仲間がほしいのだ。 「それもこの世界では頼もしい」 ゼタはルンに片手を差し出す。 それをじっと見たルンは「握手」という行為を思い出し、同じように手を出して握った。 「これからも仲間として宜しく頼む」 「わかった」 マホロバの仲間を再確認したルンは頷き、和装ということを忘れるくらい軽やかな動きでその場から姿を消した。 大量の食べ物をゲットしたササキも加わり、ツギメとジューンの3人は初詣の列に並んでいた。 寒い気温もこれだけ人が居ると暖まったように感じる。 「そろそろですね」 階段を上り終え、ジューンは大きな注連縄を見上げた。 新しい立派な注連縄だ。その上にはマホロバの厄除けである紙飾りがずらりと並んでいる。 最前列に出たところで足を止め、両手を合わせると目を閉じた。 (リベラとエミリナが自分の世界に帰れますように。知り合いが皆幸せでありますように。私もいつか必ずカンダータへ再帰属できますように――) 大切な双子の幸せ、知り合い皆の幸せ、そして自身の帰属の願いを一言一言力を込めるように想う。 数々の騒動で傷ついた人を沢山見てきた。 これからはそんなことがないように、と念入りに願う。 それはササキも同じようで、合わせた両手に溢れんばかりの力を注いでいる。 願い終わり、列から外れた場所でジューンは訪ねてみた。 「ツギメ様は何を願われましたか」 「私か? ………」 ツギメはほんの少し言い淀み、空を仰ぎ見た。 「……昨年、行方のわからなくなった者に友人が居てな。安直な願いだが、いつか帰ってくるように、と……そんな願いだ」 いたく悩んでいるのが最後に見た姿だった。死んだと確定した訳ではないが、生きているという確証もない。なんとも宙ぶらりんな現状にツギメはもどかしさを感じていたが、世界司書という身の上を考えると派手には動けない。 答える代わりにジューンはそっとツギメの手を握った。 そこに黄色い着物のルンが現れる。 「ここに居たか! あっちでミコシ……? とても大きい、家みたいなの皆、担いでる。見にいこう!」 「わあっ、ぼくも見たいです! 先輩、ジューンさん、いきましょうっ!」 ツギメが微笑んだのを見てジューンも口元を綻ばせる。 「いきましょうか、ツギメ様」 「ああ」 人々の精彩な姿に目と耳を楽しませながら4人は歩く。 その背はまるで風景の一部のように自然に溶け込み、群集の中へと消えていった。
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