浮遊諸島モフトピアの、とある一つの集落にスイートポテトという作物があった それはスイートポテトがそのまま植物になったのではなく 見た目も味もサツマイモにそっくりな姿をしている 0番世界は壱番世界を基準にするならそのままサツマイモにするところを なぜあえてスイートポテトと言うのだろうか? 答えはこの作物が2つの「sweet」を意味するからだ 1つは見た目の通りその作物は味覚の点でも甘く美味しいと言う感想から もう1つは壱番世界のサツマイモと違うある特徴が甘いと言う意味を含ませている その甘さというのは…………「エット、今回持ってくバターや小麦粉はそのサツマイモを分けてくれるアニモフサンへのお礼デス。あ、アニモフサン達は丸っこくて触るとぷにぷにする可愛い子ブタさんだそうですヨ。その人達と一緒に午前はサツマイモを収穫して、夕方まで美味しいスイートポテトやクッキーを作って楽しむのが一応の依頼デス。夜はその作ったお菓子でワイワイパーティを楽しむのも良いかもしれませんネ」「1つお尋ねしてもよろしいですか?」 所変わってある司書室での1人と1体の会話「ハイ?」「何故私なのでしょうか?確かに料理も運搬も可能ですが……私は機械です。食べる演技はできてもその食材を消化することは不可能です。それならばほかの方に譲った方が適切ではないでしょうか」 一部を抜粋してお送り中「あ、失礼しまシタ。こちらはですね、味も然ることながらもう1つ、素敵な特徴を持つ植物なんデス。この植物は一株につき1個、立体的なハート型の葉をつけます。この葉は両手で覆えるくらいの大きさで、夜はオイルランプのように淡い明るさで、白い光を放つそうデス」「はい」 1人は紫色の肌の背の高い男「さらにその葉に、誰かを思いながらキスをするとその気持ちに沿った色に、例えば恋愛なら赤系統の色になるそうなのデス」「………………」 1体は華奢な少女に似せた機械「やっぱりハート柄といえば2月ですが、今はクリスマスの時期デス。この時期にぴったりですし、その畑も花壇みたいな場所ですから夜のお散歩は楽しいと思いマスヨ。良かったらカップさんもお仕事が終わったら水薙サンと一緒に散策してみては如何でしょウカ?」「ちなみにクリスマスは25日ですよね」 現在の日付は26日、見事に過ぎた年末の午後のお話「…………アノ、エト……」「謝らなくていいですよ。前日まで忙しかったですし、一応ロイシュさんの好意だと判断していますから」 一瞬で言葉に詰まった男に機械はやんわりとフォローを入れる「それハ……!」「えぇ、この依頼お受けいたします。流石に機械の身なのでその後のパーティは辞退させて頂きますが、その話だと既に水薙の分も取っていらっしゃるのでしょうか?」 実は断られるのかと思っていた男はその反応に驚いたようだが「ア、それはまだデスッ。でも宜しいのですカ?」「大丈夫です。それ以外に断る理由もありませんし、ミズナギはイベント事は好きですから」 その気持ちを汲みつつ機械は仕事を受け入れた「?……あ、一度ちょっと確認に行っても良いでスカ?この時間に追加ができるか聞いていなかったノデ」「えぇ、どうぞ」 機械の言葉に一つ気にかかることがあるが「ハイ、失礼しマスッ」「…………」 それでも機械の気持ちが変わらない内に男は部屋を走り去った。そんな男の背から機械は視線を左手に戻す ふうせんガムが弾けた様な音の後、陶磁よりも白く細かった手は合成樹脂と金属のガラクタになる「……その葉は物にも反応するのでしょうか?」 今度は白い煙を出しながらまた滑らかな手に戻しつつ、機械は一言呟いた
そこは赤レンガの花壇の中、彩り色の花の代わりに咲き乱れるのは緑と白の葉、よくよく見ればそのハートにも似たつる付きの葉っぱは壱番世界のサツマイモによく似ていました。 その葉の下にはこの畑を管理するアニモフ達のとっておき、スイートポテトが眠っており、そのスイートポテトを収穫しようと数人のアニモフと一緒になって、ティリクティアもそのつるを引っ張っていました。しかしその根はなぜだか重く、彼女達もなかなか苦戦しております。 対して瀬崎 耀司はすまし顔、かわいい子ブタのアニモフ達がうんしょうんしょと力を込めてる間に、まるで雑草取りのようにぷつりとつまんではスイートポテトを引っこ抜いています。その理由の怪力ゆえに、つるを切らないようにとこっそり力を加減しつつ、思わず抜けてよろめいたティリクティアをさり気に支えて紳士的に対応します。 「水にゃぎ~~」 呼ばれて顔を上げた水薙・S・コウは声の主に振り返ります。何故かいつもの口調と異なる舌っ足らずな声のカップ・ラーメンは、常とは違う笑顔をたたえて、水薙に声をかけます。 「お芋さんはこれで十分にょ。にゃぁ達はこれからお芋ふかすからちょっと経ったら戻ってきてにゃ」 「おう、それとカップ。この葉のことだけどさ、後で」 簡単な報告を済ませつつ、ふと水薙がもう一つの葉、壱番世界のサツマイモには無い白くて少し立体的なハートの形の葉をカップに見せようとして、 「え゛!?」 「「……」」 後ろの暗ぁい声で止めてしまいました。ちなみに相手は坂上・健、彼は水薙が世界樹旅団の団員時代から縁のある人で、水薙も彼の名前は覚えています。 「水薙」 「うるさい」 「お前の相手って2m越えの超兄貴褌マッチョロボットだと心の底から信じていたのに!」 「黙れ」 「さっきの可愛い女の子は何なんだ!?」 「空気読め」 ほんのりその目に血涙が見えそうな形相でまくしたてる健の話を、水薙は無視を決めたいようです。ちなみに女の子と言われた本当はロボットのカップは、この間に空気を読んで集落へ帰っていましたとさ。 「お前なんかお前なんか……もう仲間じゃないやい!」 「そもそも仲間じゃねぇよ!!」 「うわーん!」 仲間ってどんな意味だよ、と心の中で水薙が思っていると、健は何故か泣きながら集落へと戻っていきました。 「はやく魔法使えるようになって俺に見せてくれよ、健」 そんな風のように去って行った健の背を見えなくなるまで水薙は見送ったそうです。 「甘くてほくほく、栗四里美味い十三里~♪」 「あら、ユーウォンはどこへ行くの?」 収穫したスイートポテトの籠を耀司と一緒に帰ろうとしたティリクティアは先程まで一緒に『一番でっかいのを掘るのはおれだ!』とはしゃいでいたユーウォンが林の中へ向かうのを見つけます。 「うん、ちょっと落ち葉を探しに」 「あぁ、なるほど」 「お菓子にするのも勿論いいけど、そのままの焼き芋もぜひと思ってね」 「まぁ……!」 「熾火(おきび)の中でじっくりと焼いて……とろりバターをどっさり乗せて、暖かいミルクティーを添えて!」 「うまそうですね」 「でしょ? おれ1人でもできるから、寒くならないうちに3人は先に帰っていいよ」 「えぇ、それじゃあ私ミルクティーを用意して待ってるわ」 「うんっ、じゃあまた」 こうしてユーウォンを見送りさて自分達も帰ろうとした所でふと、耀司は気づきました。 「あれ? 1人多くないかい?」 アニモフもいなかったのにと小首をかしげながら、それでもティリクティアを待たせない内に彼らもアニモフの集落へと戻っていきましたとさ。 さて、上手く創れるやろか、と禍月 梓は心の中でつぶやきながら、セクタンのレンゲが周りでちらつくのもよそに、ゆっくりとあん状のスイートポテトに計った牛乳らを加えていきます。ザルで何度もこしたなめらかなあんこは耀司達男の子の手作りです。彼らは他にショートケーキの生クリーム作りと力仕事を手伝ってくれています。ただ健だけが鼻から煙のようなものを出してましたが、まぁ大丈夫だったのでしょう。 「ぷにぷにぃ」 「ぷにぷにだ~~」 ふと、レンゲがアニモフさん達に囲まれていました。デフォルトフォームのセクタン独特の、プルンプルンのゼリーに似たその触感が気になったのでしょう。まぁるいおててでがつんつんするようにレンゲをなでます。 「こら、だめよ」 ティリクティアが先に気づいてアニモフさんを抱き上げました、そして彼女は驚きます。 それはまるでマシュマロみたいな柔らかい感触でした。それもただ柔らかいのではなく、少しあとで押し返すような弾力があり、出発前の世界司書が言っていたぷにぷにというよりはぷにゅっ、とした感触の方が近いかもしれません。 もっと抱きしめたかったのですがまだまだ料理は途中でした。なので彼女はこの後、料理が終わったらアニモフさんにまた触らせてね、とこっそり約束したのでした。 「おいしい」 料理はどれもおいしくできあがりました。ティリクティア達が作ったお菓子のスイートポテトも、まるでお店のような味です。 裏ごしによって均一になったスイートポテトのあんは、混ぜた牛乳によってさらりととろける舌触りを生み、甘さを引き立たせるバニラエッセンスの中に、ほんのり香る隠し味のラム酒が大人の風味を感じさせます。 ユーウォンの用意した焼き芋も格別です。こちらは殆ど加工を加えていませんが、シンプルだからこそスイートポテトの本来のほっくほくで素朴な味わいが引き立ち、バターやジャムとよくあったのです。 「……梓?」 ふとティリクティアが気付きました。梓も彼女と同じくお菓子のスイートポテトを食べています。他の人からは表情の変わらない梓が喜んでいるか、少し分かりません。しかしすでに4・5個目のスイートポテトを食べており、よくよく見ればその口元は常よりも柔らかくゆるんでいました。 しかし今の梓の表情はこわばっていました。口は一口も動かない真一文字、目は少しうるみ、どこかのどは小刻みに震えています。そののどがごくん、と何かを飲み込んだ瞬間、だんっ! と彼女は食べかけのスイートポテトごと机を叩いたのです。 「梓にゃんどうしたにゃ?」 「スイート……ポテトが」 「お菓子の?」 「つまったの? だいじょうぶ?」 「あ、これだけ中が真っ赤だね」 カップ達があわてて寄ってきます。アニモフもお菓子を詰まらせたのかとホットミルクを差し出してくれます。そして耀司が彼女の食べたスイートポテトをのぞけば、真ん中にそこだけ、とうがらしを混ぜたあんが入っていました。勿論彼女達はとうがらしは用意していません。そんな彼女がやっと落ち着いたころ、すっと誰かがショートケーキを差し出しました。差し出したのは健です。 「一緒に食う相手なんぞ居ないからな………ハハハ」 なぜか健の方が泣いていました。あえてみんなは聞きませんでした。そんな健に今度は誰かが近づいてきます。 「だいじょうぶ?つまったの?食べる?」 それはセクタンのポッポが連れてきたアニモフさんでした。手にはホットココアがあり、とても甘く温かくなりそうな匂いがします。 その子を見つけた瞬間、健は思わず抱きしめて残り一日を癒したそうです。 「綺麗ね」 その日の夜のこと、温暖なモフトピアの温かくも涼しい空の中をティリクティアは浮かんでいました。雲のベッドに乗って、風の吹くまま気のままに、それでもみんなのいる集落からは離れない位置を保ちつつ、彼女はモフトピアの空を浮かんでいます。 上に見えるのはもちろん満点の星空で、すでにモフトピアでは夕方を過ぎ、太陽に代わって出てきたお月様が、たくさんの星々を連れてきて、モフトピアの空をきらきらといろどっています。その近くで、そして下に見えるのは彼女と同じ空を浮かぶ浮雲の切れ端と、集落と同じく浮かぶ大地とともに、ぽつんと光が浮かんでいます。 スイートポテトの光です。昼間は砂糖をまぶしたように白かったハートが、夜はランプのように輝いて、少しずつ増え続けながら、浮島をミニブーケのように包んで行きます。 みんなは楽しんでるのかしら? と思いをはせながら、でもこの感触も今だけだと知ってるので、あえて戻らず彼女はまた雲間に身をゆだねていきました。次に島を見たら今度は花束のように見えるまでに増えたスイートポテトに驚いたそうです。 そしてその増えていくスイートポテトの中心にはカンタレラがいました。彼女は午後からの参加者です。そして彼女はカップの案内の後、畑を散策しながら今は1人で歌っています。 その歌は子守歌でした、ここに住むアニモフ達に向けた子守唄、このスイートポテトを育ててきた集落の彼らに向けた子守唄、そして彼らが育てたスイートポテトへ実りを祝す子守唄を歌います。 優しい歌はモフトピアの穏やかな風に乗って、雲の上のティリクティアを運ぶと同時に、耀司達の居る集落に、彼女の歩くスイートポテトの畑に流れ、届き、多くの人にその歌声を聞かせました。 「……ん?」 梓は目を覚ましました、彼女はウッドチェアにもたれて寝ていました。 彼女は少し考えて周りを見渡します。ティリクティアはモフトピアの空を、ユーウォンがスイートポテトの畑を見に、カップが後から来るというカンタレラを迎えるために外へ出ていったのは覚えています。その後は散策前に残った人達とお話ししていた事も覚えていました、しかしなぜ眠たくなったのになぜ寝てしまったのかは彼女には分かりませんでした。 「水薙、まだ寝とるかえ?」 「……んっ」 ふと、彼女は健と同じ机に突っ伏して寝ている水薙を見つけました。すぐに彼女はその背をゆすり、彼を起こします。 「カップは?」 「戻っておらんようや。さて水薙、あんさんは追わんのかい?」 「……! ありがとな」 何を追えとは言っていませんが、そこで水薙は気づいたようです。すぐにまだ着ていたエプロンを脱ぎ、すぐさま外の扉を開いて、 「うおおっ!!」 外の景色に、畑から離れた集落まで大量に広がったスイートポテトにびっくり仰天しました。 「やらかしてしまったのだ!」 そんな声と、そこまで伸びてしまったスイートポテトにやっと気づいたカンタレラは、思わずこつんと自分の頭を叩き、そしてぺろりと舌を出しつつも、どこかすっきりとした顔をしていたそうです。 (殆どが同じ系統色だね。これは楽しいって気持ちだけが表に出てるからかな) ユーウォンは1人畑の中を歩いていました。 葉の殆どは温かく白い光をしています。時々黄色や緑色の色をした葉も見受けられましたが、思った以上に目立った色は見つかりません。 (おや、あれは) ふと、ユーウォンは珍しい色で光る葉を見つけますが、思わず物陰へと隠れてしまいました。そのそばに色を付けた本人のカップがまだ居たからです。 その光はチョコレート色でした。ほんのりいちごが入ったような赤めの甘い色を、仕事用の笑顔の中にどこか陰りを見せて、少女のロボットは眺めているようでした。 「カップ!!」 カップは顔をあげます。慌ててユーウォンは顔をさらに下げて様子だけをのぞこうとします。残念ながら声は届きませんが、2人の様子は周囲の葉っぱが灯りになって、動きが遠くからも見て取れます。 最初は水薙が何かを求めてるようです、それにカップは少し困惑し、話をそらそうとしていましたが、彼は折れません。とうとう彼女の方が折れたようで、大人しく色の付いていない葉をもらいましたが、右手を相手に向けています。多分、先にやってと言ったのかもしれません。それに応えて彼が葉に口づけをした所……… 虹色の葉が手にありました。ユーウォンからも分かるほど、周囲には微妙な雰囲気が漂っています。気のせいか水薙は慌てているようです。 (なんでだろう? 1枚増えたよね?) ユーウォンだけは知っています。虹色の葉は突然水薙の手に乗っていました。キスをした方の葉は原色にも近い朱色に輝いて足元に落ちています。自分以外に誰かがいたのか分かりませんが、今の誤解だけは出て行って説明すべきだと、彼は思ったようです。 そしてその後の様子はだれか、恐らく虹色の持ち主が見ていたはずですが、残念ながらその人が見つからなかったので、このお話はここまでになります。勿論虹色の誤解は解け、参加者達はその日のちょっと楽しい思い出を胸に、小さなお土産を携えて帰って行ったのは本当のお話なので、その点は安心してくださいだそうですよ。 【Fin】
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