ノアを基点に南東に位置する地下都市カペルツ。その奪還戦を順調に進めていたカンダータ軍は偵察部隊の急報により緊急会議を開いていた。 内容は、周辺東方~南方の広い範囲にかけてマキーナがその戦力を加速度的に増加させているというもの。侵攻ルートからカペルツを目指しているのは明らかであり、その戦力規模は既に連隊規模に達し未だに増加中である。 放置すれば東と南の侵入口よりなだれ込むマキーナにカンダータ軍が押し出されるのは明白である。とはいえカペルツを制圧してから防衛体制を整えていたのでは間に合わない。撤退も考えられたが、増援と合流するまでにどれだけ戦線を押し上げられるか分からない。 出された結論は、シンプルなものだった。 すなわち、攻撃は最大の防御――。「例えば、それは強襲防衛。カンダータより支援要請が届きました」 リクレカはいつものように依頼内容を切り出した。今回は映像端末は使わないらしい。「あくまで要請ですので、応えるかどうかはこちらに一任されています。ただし、応える以上は現地部隊との協力をお願いします」 最近こそディナリア関連でそれなりの信頼を得ているが、世界図書館とカンダータの関係は複雑な部分も多い。「派遣先はカンダータの南東方面の現地部隊になります。他の部隊との接触機会はないものと考えて下さい」 つまり異世界方面軍やディナリア方面軍との接触もない。「作戦内容は強襲占拠及び突破阻止。詳細は現地で説明があるとのことです」 カンダータ南東方面軍の作戦は大きく分けて3つ。 1つ、最低限の戦力で早急にカペルツを占拠する。 1つ、カペルツ東方の侵入口に防衛ラインを構築、戦力を集中させ侵入部隊を逐次撃破する。 1つ、カペルツ南方の都市レネクトの北東部を占拠し、同エリアの渓谷で敵部隊の北上を食い止める。 ロストナンバーが派遣されるのは、この内3つ目の作戦である。 ロストナンバーを迎えたのは南東方面軍の第3特務大隊だった。今回同じ戦場に立つ部隊でもある。時間が惜しいということで一同はすぐにブリーフィングルームへと案内された。「我々の担当が決まった。レネクト北東部を占拠し敵の北上を食い止める」 少佐の説明に室内はにわかにざわついた。レネクトはマキーナ占領下の都市で、本来ならカペルツ制圧後に攻略される予定だったのだ。「情勢が変わったから前倒しらしい。キツイ仕事が回ってくるのはいつものことだ、私語を慎め」 室内が落ちついてから、少佐は説明を続けた。「改めて状況を確認するぞ。マキーナはここ数日で加速度的に前線戦力を増加、最新の評価報告では1個師団相当がカペルツに向かって進軍中だ」 部屋正面のモニターには各戦力配置と予想侵攻ルートが示された。 マキーナはいずれも中量級(装甲車~戦車相当)で、人型汎用タイプと亀型多脚砲台の2種が確認されている。組み合わせで言えば戦車と自走砲に近い。現時点ではどちらにどれだけの戦力が向かうかは不明である。 対して第3特務大隊の戦力は装輪偵察車と戦車(無限軌道)に自走ロケット砲が各4両、牽引野砲2門に強化兵1個中隊他である。特務部隊だけに精鋭揃いなのがせめてもの救いか。「正面戦闘になれば壊滅的な被害が出るだろうな。カペルツで防衛しても勝ち目は薄いというのが上の判断だ」 無論、各方面への増派要請は行われているが敵側の進行速度と戦力規模もあり混乱しているのが実情だ。ロストナンバーが派遣されたのも即応戦力としての側面がある。「そこでだ。我々はレネクト北東部の渓谷両岸を占拠、味方の増援が到着するまで南からの敵をここで食い止める」 正面の映像がエリアマップからレネクト都市図へと切り替わった。「カペルツに南から侵入する場合、マキーナどもはこの渓谷を通過せざるを得ない。現在は敵勢力下だが、ここを抑えれば戦力差を地勢である程度カバーできる」 カペルツと続く地下道の入り口から少し南にはS字のような渓谷があり、4つある予想侵入ルートは全て渓谷手前で合流している。加えてこの渓谷の両岸高地の登坂口は北側、すなわちカペルツ側にしかない。「我々は速やかにこのエリアに進入し周辺の敵防衛戦力を撃破、渓谷両岸の高地を占拠し敵部隊を迎撃する。少数ながら心強い増援も得ている、地勢を上手く利用しどうにか耐え抜いて欲しい」 落差30~50mある崖はマキーナでも登坂は難しく、また高地は大半が渓谷からの死角にあたる事から上手く立ち回れば一方的な攻撃も不可能ではない。地形の関係で一度に侵入する数も制限されるはずだ。幸いな事に飛行タイプのマキーナは確認されていない。そしてレネクト自体の防衛戦力だが。「幸いカペルツ制圧戦時の増派の影響で今のところレネクトの駐留戦力はかなり少ない。見落としを入れても北東エリアのマキーナは10体程度だろう」 もちろん敵勢力下なので油断は禁物だ。例えば。「ただしこちらの侵入に応じて敵長距離砲の攻撃は当然想定される。動き回ってかわしながら急いで敵の目を潰せ」 一度も見つからなければ撃たれることもないが、突入直後は敵の方が地勢的には有利なため隠密行動は困難と思われる。大部隊が近づいていることも考えれば防衛部隊は手早く片付ける必要があるだろう。 なおカンダータ側の部隊編成だが、会議の結果次のようになった。1.主力迎撃部隊 西側の高地を占拠、敵部隊への攻撃及び砲撃管制を行う。 なおこちらの高地は渓谷の他高地の南と西への攻撃も可能なため、余裕が有れば渓谷侵入前の敵戦力も減らす事。 強化兵2個小隊、戦車及び偵察車各2両他。2.第2迎撃部隊 東側の高地を占拠、敵部隊への攻撃及び砲撃管制を行う。 東西それぞれの高地には死角があるため対岸の死角を上手く補い合う事。 また東側からは渓谷内部にしか攻撃できないため渓谷内掃討と砲撃指示はなるべく東側が受け持つ事。 強化兵1個小隊、偵察車1両他。3.突破阻止部隊 渓谷両岸からの攻撃により破壊しきれなかった敵を直接攻撃により撃破する。 残り物担当だがここを突破されると作戦全体が崩れるため気を抜かないように。 敵長距離砲に注意。交戦時は1カ所にとどまらない事。 戦車2両、偵察車1両他。4.支援砲撃部隊 前線の指示に従い砲撃を敢行する。 敵長距離砲による反撃も予想されるので陣地転換を怠らないように。 自走ロケット砲、牽引野砲他。※主な攻撃ポイントA.渓谷一帯 渓谷内は狭く見通しも悪いため格好の攻撃ポイントである。 なお渓谷入り口は敵の合流ポイントで渋滞が予想される。 支援砲撃の第1目標はこのポイントになると思われる。B.西岸高地南 西岸高地の南は南東と南、西の侵攻ルートの合流地点になる。 特に南東の侵攻ルートは真正面に当たるので長距離狙撃等も可能だろう。C.西岸高地西 西岸高地の西側には西の侵攻ルートの一部を捉えられるポイントがある。 相対距離がそれなりにあるので長射程武器の使用を推奨する。 ただしこの侵攻ルートはポイントBも通過するため他と比べて優先度は低い。 なお、戦力差の関係で一度の被発見が味方全滅に繋がりかねない。欲を出さずヒット&アウェイに徹する事。・作戦スケジュール>直接戦闘部隊により強襲、敵防衛戦力を撃破し渓谷両岸を確保。>北東エリアを勢力下に置いた後、支援砲撃部隊を展開。>以降、味方本隊の到着まで敵増援部隊を阻止する。作戦目的:マキーナの突破阻止※2個中隊相当(中量級なら25体前後)が地下道に潜入した場合、作戦は失敗とし撤退作戦へと移行する ちなみに一時的か恒久的かを問わず渓谷そのものを封鎖することは今回の作戦では禁止されている。こちらからの侵攻の妨げになるのはもちろん、封鎖した場合は全戦力が東側に向かうのがその理由である。 東側は南東方面軍の主力が固めているが、正規軍であるが故に奇抜な戦略が取りにくく戦力差の影響を受けやすい。そして主力であるが故に損耗がそのまま今後の作戦にも影響する。 強力な特務大隊の1つに加え、ロストナンバーまで投入する作戦だ。レネクトでの迎撃が本命なのは誰の目にも明らかだった。
time11:00~ カペルツ~レネクト間地下鉄道 ロストナンバーを加えた第3特務大隊は、カペルツとレネクトを結ぶ地下鉄道を進軍していた。装甲列車の中で、ニコル・メイブは用意して貰った武器を見ながら特務大隊の曹長と話し込んでいた。 「曲者揃いだけど威力は保証するよ」 「んっ、ありがと」 列車に乗り込む前にニコルが頼んだのは、現地で使用されている一般兵用の近距離専用武器。ピーキーで構わないから一番いいのよろしくと笑顔で頼んで出てきたのは、対装甲格闘戦調整の指向性爆薬2種に引き金付の短刀2本だった。 「こっちが通称ランサー、貫通力を重視したタイプ。で、こっちが通称ブレイカー。粘着榴弾みたいなものなんだけど……分かる?」 「分かんない」 「僕も技術屋じゃないから詳しいことは知らないけど、衝撃波で装甲の内側を砕いてダメージを与えるんだって」 「へえ」 「あとこっちは見たまんま、引き金を引いたら火薬が炸裂して振動する。タイミングが難しいけど決まれば強い」 彼女がわざわざこうして武器を用意して貰ったのは、ひとえに前回のディナリア移動要塞戦でギアが通じなかったからに尽きる。最もその時の相手は強力な拠点防衛型で重火器に耐えうる装甲を持っていたため、この装備でも通用するかは怪しいが。 一方で今回のメカコンビこと幽太郎・AHI/MD-01Pとオズ/TMX-SLM57-Pは少佐以下数名の大隊幹部と作戦行動について話し合っていた。彼らはその外見が兵士達よりはマキーナに近いため、一般兵はやや敬遠がちだった。 「見た目で馴染めないのはわからんでもないが……屑鉄共よりは言葉を解する我輩達の方が安心できるだろう?」 オズがそんな風に言うものの、どうも彼等には自律行動メカへの警戒心があるようで。まあこれは戦場を共にすればすぐに解消されるだろう。 「オズ、ト一緒。ボク、頑張ルヨ」 オズを誘った本人である幽太郎はカンダータに慣れていることもあってか気にするそぶりを見せず、自身の行動指針を少佐と詰めていた。戦場における索敵の重要性は言うまでもない。故に、彼がどう動くかは非常に重要な要素なのだ。 (しかし、オニイサマの要請で参加したがこの戦力差は……いささか分が悪いか) 進軍中に入っている評価報告は、敵戦力のさらなる増加を伝えていた。いかに地勢的有利があれど、抑えられる数には限度があるだろう。これだけの戦力差があると弾切れのタイミング1つで押し切られる事も十分あり得る。 (――なら、状況を覆すためにオニイサマの荷電粒子砲のロックを解除しておこうじゃないか) 設計データを元に、プロテクトを破る。全てはただオニイサマを破壊されないために。何故彼が設計データなんて持っているのか、その辺りの複雑そうな事情はここで触れることでもないだろう。 「……ェ? 荷電粒子砲? 僕、ソンナ怖イノ、付イテナイヨ?」 うっかり思考が一部リンクに漏れていたのか、幽太郎がちょっぴり首をひねりながらオズを見つめた。さて、実際の所はどうなのか。 (機械にイタズラできるって聞いたけど、なんかめんどくさそーなのに参加しちゃったなぁ~) 兵士達の真剣なやり取りにちょっぴり気が引けてきたのはギィロ・デュノス。幼さからの無邪気さ故か相手が機械だからか、戦争という状況がいまいち飲み込めていないのかもしれない。 「まぁ、要は目立たないようにして敵をやっつければいいんだろ! 邪竜の強さ思い知らせてやるぞー!」 「オゥ、その意気だ。頑張れよボウズ」 兵士達と談笑していたギル・バッカスは、そう言ってギィロの頭を荒っぽく撫でた。ちなみにギィロも外見が特徴的だが、生物な事もあって敬遠されることはなかったようだ。 time11:50~ レネクト北側ゲート付近 幽太郎が光学迷彩で姿を隠し、尻尾だけを地下通路から出して周辺を索敵。情報はデータリンクでオズやカンダータ軍にも送られる。オズ以外のロストナンバー達にも幽太郎から配られたヘッドマウントディスプレイ(ナラゴニア襲来時に使用したのと同タイプ)に情報が映し出される。近場のマキーナはゲート付近に人型2体、少し離れたところに1体。残りは高台か離れた物陰にいるのかここからでは見えない。 対防衛部隊戦は速攻が肝心だ。数的優位があるうちに片付けるのは勿論、長引けばそれだけ味方は消耗する。 「そんじゃいくぜ」 ギルの気勢と共にギィロが対物銃に変化させた槍で手前のマキーナの膝関節を続けざまに狙い撃つ。魔法で音を抑えているので威力に似合わず静かな射撃だ。そしてオズが空中へ、続いてギルとギィロとカンダータの強襲部隊がゲートから飛び出した。ディスプレイに映る地面が、敵砲撃危険性の上昇と共に赤や黄色に染まっていく。 不意を突かれたマキーナ達は、それでも真っ先に射界に入ってきたオズにレーザーを乱射した。しかしオズはブースターを使用した不規則飛行でそれらをかわし、急角度で突撃をかけると奧にいるマキーナをギアのWレーザーブレードで切り刻んだ。今回最初の撃墜である。 一方ではギルとカンダータ兵達がゲート付近のマキーナ2体を片付けていた。ギルが地面を盛り上がらせて出す壁が防弾壁となり、魔法や銃砲撃で1体ずつ確実に沈黙させていった。この間僅か十数秒。 すかさず幽太郎が光学迷彩のまま出てきて先程見えなかった部分を策敵する。 「西ノビル影ニ1体、各高地ニ3体ズツ!」 素早く坂を高台1歩手前まで上って渓谷両岸も索敵。ギルはやはり土壁で敵の攻撃を防ぎながら西へ、オズは超低空飛行で渓谷に突っ込んだ後急上昇して東の高地へ。西側高地へは大形の鳥に変化したギィロが武器をロケットランチャーに変化させて制圧射を敢行、それぞれカンダータ軍との連携で1桁前半の分数で片付けた。ディスプレイに映る地面は見事に行動エリアが真っ赤になっていた。 北東エリアの渓谷南口までを制圧した強襲隊は一転して地下道やディスプレイの地面が青いエリアに退避する。程なく上空で破裂音がし、無数の鉄球や煙幕が辺り一帯を覆い尽くした。 「なるほどね」 見極めのために強襲には参加せず地下道で戦況を見守っていたニコルは、味方の鮮やかな手並みに無意識に頷いていた。戦力差が大きかったとはいえ被害はほとんど無いと言っていい。またマキーナも図体こそ大きいものの要塞戦時と比べると全体的にかなり劣るようだ。特に機動性は比べるべくもない。強化兵の20mm機関砲が十分通用することだし、ギアでもやってやれないことは無さそうだ。もちろん増援の強さにもよるので油断は禁物だが。 「強襲部隊は弾薬補充。各部隊展開急げ」 少佐の指示が飛び、車両部隊が地下道から姿を現す。煙幕は魔法の風で流され、幽太郎は西側高地に登り渓谷内から南側を索敵、ギルは先の要領で崖に土壁の防塁を作っていった。南の崖下にいた亀型5体はギィロの曲射とオズの空襲であっけなく破壊された。苦し紛れの大型ミサイルは全て切り払われた。 time12:20 タイムスケジュール上のカペルツ占領完了予定時刻だが報告無し time12:30~ 渓谷西岸・主力迎撃部隊ウラジーミル 高地占拠後しばらくは侵入を感知した防衛部隊が数体接近してきただけで、時間差で接近したマキーナ達は西岸部隊の集中射によりあっけなく撃破された。被発見前に撃破できているのか長距離砲は飛んできていない。 評価報告に基づくエリアマップの戦力分布では、すでにエリア内への侵入は始まっている。そろそろかと緊張が走る中、西岸高地を巡回偵察していた幽太郎のレーダーがいち早く敵の接近を捕らえた。 「南方ヨリマキーナ接近、人型11、亀型6ダヨ」 『お客さんのお出ましか。ウラジーミルスカウト、進行速度を出したらスプルートに送れ。指示は代行してくれるはずだ』 『「了解」』 少佐の丁寧な指示は幽太郎を意識しての事だろうか。指示通り幽太郎達西岸の偵察部隊は敵の進行速度を割り出し、受け取った東岸の第2迎撃部隊スプルートが情報を元に砲撃地点を決めて支援砲撃部隊スメーチに指示を出す。少しして後方から重砲音が響き、ロケット砲と榴弾砲がウラジーミルの頭上を越えてマキーナ達を襲う。敵先頭部隊のまさに真上から着弾したそれらは脆いマキーナを次々とスクラップに変た。 「着弾確認、直撃です」 「よし、各員攻撃開始。撃ったらすぐに引き返せよ」 続いてウラジミールの射撃が飛ぶ。ギルの作った防塁とギィロの魔法隠蔽でうまく身を隠しながら、数秒撃ってはすぐに身を潜める。魔法でステルス可能なギィロは身を隠す必要もないので防塁の隙間から精密狙撃を繰り返し、ギルは魔法攻撃なのでディスプレイを見れば姿をさらす必要自体がなかった。 「へへっ、どんなもんだい」 「油断すんなよ、まだまだ来るぜ」 支援砲撃を耐え抜いたマキーナはウラジミールの攻撃にあえなく沈黙した。遠くからマキーナの砲撃がウラジーミルの後方に飛ぶが、これはスメーチが上手く回避してくれることを祈るしかない。後続も同じ要領で殲滅。単機性能がそれほどでもないので倒すのには苦労しないが、まだ西岸南方、つまり南東ゲートからのマキーナしか来ていない。さらに増えたらどうなるのか。 「南17機、西カラ人型4ト亀型1」 侵攻部隊との戦闘が始まって20分、崖下西側からもマキーナが現れた。効率の良い撃破を目指すため合流地点まで引き寄せて砲撃を叩き込む。続いての一斉射で南側の部隊だけなら殲滅できていたのだが。 「ちぃっ、残りやがった」 比較的耐久力の高い亀型が1機残った。ギルの舌打ちにすかさずギィロがプラズマカノンを撃ち込んで沈黙させる。目立つ武器だがそこは魔法で隠蔽だ。 しかしそのさらに5分後。 「南17、西5、東5」 今度は東側からも現れる。幽太郎は急いで渓谷内部も見渡せる場所に移動し、砲撃地点も西岸高地南から渓谷入り口に変更された。入り口で渋滞を起こしているマキーナを頭上から砲撃が襲い、ウラジーミルとスプルートによる追撃で数を減らす。しかし。 「しつこいんだよおまえらー」 ギィロが毒づきながら攻撃範囲の広いバズーカを撃ち込み、ギルも石つぶてによる範囲魔法攻撃を仕掛けて何とか渓谷中程で殲滅できたが、今のはかなりギリギリだった。この上さらに敵戦力が増えたら――。 「南17、西17、東5」 「なんだと!?」 ウラジーミルの隊長が思わず叫ぶ。西からの戦力が一気に3倍以上に増えたのだ。地形から見て、一番遠い西ゲートからの敵だろうか。総戦力も数だけで見てもいきなり4~5割増だ。 戦術は今まで通り支援砲撃から両岸戦力による射撃。というより地勢を生かすにはこの手法しか採りようがなかった。砲撃で半壊させ、射撃で生き残りを破壊していくが、今度という今度は数が多すぎた。 「くそー、止まれー」 ギィロは時間稼ぎにと脚部関節や頭部を狙い撃ったり電撃光線を浴びせ、ギルが敵足元の大地を槍状にして撃ち出すが、敵の一部はとうとう渓谷の2/3を越えた。 「ウラジーミルよりギガント、7機ほど抜けるぞ。ダメージは十分与えたから止めを頼む」 time13:05 渓谷北口・突破阻止部隊ギガント ニコルは敵が前線で食い止められている間、ずっとディスプレイを通して敵の動きを観察していた。マキーナの動きに何処か人間くささがないか、その動向から背後にいるだろう何かが見えないか。 しかしながら今回はそのような動向は見られなかった。下っ端なのか、ただのキリングマシーンのような動きしか見られない。その代わり行動パターンは機種別にある程度決まっているようで、冷静な観察で既にある程度の癖は見抜いていた。 「7機ほど抜けてくるぞ」 ギガントの隊長の声にニコルは近くの土壁に身を潜めた。先にギルが魔法で作っていった防塁だ。 ディスプレイに映るマキーナは、既に満身創痍で身体のあちこちから火花を飛ばしている。同じ映像はオズもデータリンクで見ていて、最後のカーブから後少しで出て来るというタイミングでブースターで突撃をかけた。突然のことにろくに照準も合わせず乱射されるレーザーが当たるわけもなく、奧の亀型に肉薄したオズはそのまま3機をギアで葬り去り、急旋回して味方の元へと戻った。追いかける人型が渓谷から飛び出すと待ち構えていた戦車が125mm滑空砲を撃ち込む。事前にデータリンクがあるから気にせず撃ってよいとオズが言っていたこともあり遠慮のない攻撃は、回避行動に移るマキーナを横にオズを巻き込むことはなかった。 (やっぱりこっちに跳ぶよね) 一方で、回避のために横っ跳びをしたマキーナは着地点から飛び出したニコルに高振動短刀で斬りつけられていた。着地するはずの脚部が吹き飛ばされ、そのまま横倒しに転がったマキーナは戦車機銃で蜂の巣にされ爆散した。ニコルはそのまま残り3機のど真ん中に飛び込み、着地の隙を突いて膝関節部を切り裂いて離脱する。満足に歩けないマキーナは戦車の格好の的だった。 撃ち漏らしを片付けたギガントは急いでレッドゾーンから離れ、程なく撃ち込まれた敵長距離砲は誰も居ない場所で炸裂した。 (どうにかなるかな) ひとまず攻撃が通用することにニコルは少し安心した。とはいえ今のは推定損害率9割越え(ディスプレイ表示より)のボロボロのマキーナばかりだった。この先数も耐久力ももっと上のマキーナが来ることは容易に想像できる。 「これからが本番だろうな」 オズが呟いた。エリアマップからみた予想侵入部隊数は2桁に達しようとしていた。 同時刻、ようやくカペルツ占領の報告が入った。予定より45分の遅れである。 time13:15 指揮車両 マキーナの侵入速度は13時頃から増加が止まり一定のペースが続いている。3部隊の連携でこれまで渓谷突破数は0のままだが、止むことのない敵の侵攻にカンダータ兵達は少し焦りを感じ始めていた。いや、それはマキーナに対してよりもむしろ。 「カペルツからその後の連絡は」 「ありません」 後方、カペルツの占領が遅れた事への焦りだろう。カペルツの占領の遅れは、そのまま味方本隊の合流が遅れることを意味する。第3特務大隊はあくまで先行部隊扱いなので、長期戦になれば装備はともかく弾薬の携行量に不安が出てくる。 「牽引野砲、予備弾薬使い切りました」 「後退させろ。他はどれくらい保つ?」 「今のペースですとレールガンは30分で尽きます。ロケット砲は中域弾が30分~1時間、狭域弾は16射分。広域弾は使い切りました」 「そうか」 主力火器であるレールガンの弾切れはかなり辛い。少佐の頭に撤退の2文字が浮かんだ。 time13:25 ウラジーミル スメーチの火力低下もあり、ウラジーミルは耐久力の低い敵を優先撃破しとにかく数を減らす戦法に切り替えていた。武器破損がない限り総合耐久力が同じなら数が多い方が総攻撃力が高くなるので、ギガントへの負担もこの方が小さいはずだ。 ロケット砲やレールガンでボロボロになったマキーナはギルが岩石散弾魔法でまとめて破壊し、ギィロは武器を様々に変化させながら亀型の砲塔部を狙い撃って内部弾薬の誘爆を狙う。 「残存戦力H8-25%、T4-69%、T8-64%」 幽太郎が残った敵の種別と推定損害率をギガントに伝える。Hが人型でTが亀型だ。あくまでも率なので実際の耐久力はT4が一番高かったりするのだが、幽太郎の試算ではまだ抑えられる範囲だ。 time13:30 ギガント 「3機か、固いけど多いよりは楽かな」 亀型を優先しているらしいオズが渓谷内へ跳んでいくのを横目に、ニコルはH8が渓谷から現れるのに合わせて側面から襲いかかった。後ろに回り込んで膝関節部を斬りつけ、体勢を崩したマキーナの胴を駆け上って肩のロケットランチャーを切除、そのまま頭部を2刀で切り裂いて、飛び降りながらレーザー銃を切り落とす。 無力化したマキーナの止めはカンダータ兵に任せ、亀型と交戦中のオズの元へ。ちょうどスモーク弾搭載タイプのT4にとどめを刺したオズと共にT8を攻撃する。ニコルが頭部を叩きつぶし、オズが不規則飛行でレーザーを攪乱しながら砲塔を切り裂く。攻撃手段を奪えば後はただの動く金属塊に過ぎなかった。 3機の沈黙を確認して、オズはニコルを抱えて渓谷北口まで飛んで帰った。再び砲撃を回避しながら、オズは既に次の残存戦力の情報を受け取っていた。 (少し忙しくなってきたか) まだどうにかなっているが、問題はカンダータ兵のレールガンの弾切れが迫っていることだった。 time13:45 指揮車両 「レールガン、予備弾薬ゼロ」 「くっ、増援はまだ出ないのか」 主力火器の弾切れの報告に、少佐は焦っていた。本来なら後10分程度で本隊が来ていたはずなのだ。 「通信入りました。予定到着時刻14:35」 「急ぐように言ってくれ、全滅しかねん」 指揮車両の簡易シミュレーターでは、レールガンの弾切れにより前線火力が9分の1まで低下するという試算結果が出ている。地獄が目の前に迫っていた。 time13:50 ウラジーミル 残弾数の関係で、スメーチのロケット砲攻撃は中域弾と狭域弾のミックスに切り替えられた。残った敵をウラジミールとスプルートで攻撃するが、20mm機関砲では破壊するのに時間がかかる。 「ちっ、しゃらくせぇ」 ギルは渓谷内の地面を魔法ででこぼこにして少しでも時間を稼ごうとした。岩石散弾も放ち先頭4機は破壊したもののが何せ残りの数が多すぎる。 ギィロはガトリング砲で脆い亀型を一掃した後、レールガンで固い亀型を撃射する。 「くっそー、どんだけ固いんだよー」 しかし、元よりカンダータ兵のレールガン一斉射撃でも残るくらい耐久力が高かったのだ。ギィロ1人で落とすのは少々無理があった。 「残存戦力H8-87%、0%×6、T3、T5、T8ガ0%、T4-58%」 11機撃ち漏らし、内9機は支援砲も上手くかわして無傷である。 幽太郎はギガントに残存戦力を伝えてから、恐ろしい事に気付いた。推定所要殲滅時間、24.1分。敵増援間隔が約5分であることを考えれば絶望的な数字だった。しかもこの計算は味方の損失を想定していない。 time13:55 ギガント 「クソッ、11機かよ」 ギガントの隊長が思わず吐き捨てた。 幽太郎の試算結果は少佐とロストナンバーにだけ伝えられた。カンダータ兵に広く知られていれば士気が崩壊する危険があった。それでも数と損害率だけで、ギガントにはその脅威が十二分に伝わっていた。 「どうする?」 「やるしかあるまい」 「だよね」 ギガントは作戦目的上、マキーナと正面から相対することを余儀なくされる。カンダータの戦力とまともにぶつかる事態は避けたい。 ニコルとオズは軽く言葉を交わして、渓谷の最後のカーブでマキーナを待ち伏せた。戦力差からさっきまでのように1体ずつじっくり相手にする余裕はなかった。 マキーナがカーブにさしかかったところで2人で飛び出す。最前列の人型3体が放つレーザーを予備動作やエネルギー反応を読んでかわし、オズがギアで両腕を切り落とし、ニコルが地面の隆起や切り落とされた腕を利用しマキーナの腹部にブレイカーをセット、そのまま顔面のメインカメラもギアの0距離射撃で破壊する。視界を殺せば行動を抑制できるだろうとの読みだが、マキーナ相手では甘かった。 「あぶない」 オズがニコルを抱え上げて大きく飛んだ。ニコルが着地するはずだった場所はマキーナ達のロケット弾斉射で火炎地獄と化していた。レーザーの追撃をかわしながら一度物陰に隠れる。ディスプレイでブレイカーの炸裂による1機撃破は確認できた。 「ありがと、助かったよ」 「あの手の敵はデータリンクやサブカメラに各種センサーと色んな眼を持っているからな」 「そっか」 光学的な目つぶしだけで相手をロストすることがまずないのはオズも同じだ。それにしてもさっきH8が放ったロケットの威力、あれではカンダータの戦車も1発で2~3両吹き飛びかねない。 「あっ、飛び込むなら低空飛行の方がいいよ。あいつら射界に味方が居ると撃たないみたいだし」 さっきはちょっと着地ずれたけどと言いながら、ニコルが告げる。ならばとオズはあえて敵のど真ん中に飛び込み、撃たない代わりに飛びかかり振り下ろされる腕をかわしながらギアで斬りつけていく。囮も兼ねていると瞬時に理解したニコルは背を向けたマキーナが再度振り向く前に取り付き、足の関節を斬りながら人型腹部にはブレイカーを、亀型頭部にはランサーをセットしていった。可能なら頭や武器を斬りつけることも忘れない。爆弾は2人が離れた機体から順次爆破させ、何とか半分くらいまで破壊した。 しかし、相手が多いこともあって倒すのにこれまで以上に時間がかかり。 「うそ、次が来てる」 殲滅する前に再び11機追加された。さすがの2人も抑えきれる自信が無くなってきたその時、追加の11機に落雷が直撃し一時的に動きが止まった。 「大丈夫かー」 苦戦を察知したギィロが落雷を放ち、ついでにと黒い狼や鳥を召喚してマキーナに飛びかからせた。 「苦しいのはお互い様だろう」 「おれたちは攻撃されないもん」 それは部隊の違いというか、ウラジーミルが攻撃されたら色々と大事である。主に作戦進行上の都合で。 ともかく、援護を得たギガントは戦車の火力も有効活用しつつどうにか敵の突破を防いでいた。もっともそれは、極めて危うい均衡でギリギリ成り立っている防衛でもあったのだが。 time14:05 中域ロケット弾の予備弾薬を使い切る time14:10~ ウラジーミル 本隊到着予定時刻まで残り25分。戦況はさらに悪化していた。 中域ロケット弾が切れたことでスメーチの火力がさらに落ち、撃ち漏らす敵がさらに増えることは容易に想像できた。ギガントの戦線維持能力もほぼ限界であり、わずかなきっかけで北東戦域全体が崩壊しかねない状況にまでカンダータ軍は追い込まれていた。 (ドウシヨウ、ドウスレバ、ドウスレバ) 幽太郎は何度もシミュレートを繰り返したが、あらゆる想定は全てカンダータ軍の全滅へと繋がった。場合によってはロストナンバーまで全滅する。この期に及んでは撤退すらも難しく、なだれ込むマキーナに後ろから大火力で殲滅させられる結果が示された。 「推定突破戦力ハH8-70%、0%×11、T3、T5、T8ガ0%、T4-22%……」 H8が5機ほど追加される計算だ。総合耐久力換算で見れば、もう支援砲撃と両岸だけでは半分も減らせない。ギルとギィロが南岸から早めに足止め狙いの攻撃をしているが戦力差が大きくなりすぎて焼け石に水だ。あと25分保たせれば、25分なのに、25分も――。 「くそったれが……ん?」 不意に、全員のディスプレイが一瞬ブラックアウトした。幽太郎依存の策敵情報がほんの僅かな間だけ途切れたのだ。ディスプレイはすぐに回復したのだが。 「おい、メカのボウズ、大丈夫か」 ギルがヘッドセットのインカムで通信を試みるが、幽太郎の反応はない。場をギィロに任せて近寄ってみれば。 「情報処理エラー発生、メインシステムダウン。サブシステム起動」 「んあ?」 幽太郎はパニックを起こして、本来のシステムがダウンしてしまった。緊急のサブシステムが起動し、起こした行動は。 「状況確認。緊急対処、行動選択、荷電粒子砲使用可、状況改善予測確認、狙点選定……」 「おいおい、何かやばいな?」 もの凄く物騒な名前が出た。装甲列車でオズがプロテクトを解除した効果がここにして現れた。 「コード02、ロック解除。荷電粒子砲発射準備……エネルギーライン、接続完了」 淡々と音声確認をしながら、幽太郎は大きく口を開き電極パネルを展開した。 「……電極パネル展開……粒子加速器、稼動。エネルギー充填開始……」 射撃体勢への以降が終わったのか、幽太郎自身の変化が止まり、口の周りに光の粒子が収束し帯電し始める。状況を察したギィロが魔法で隠蔽をかけ、ギルは可能な限りマキーナを南の崖下に留めるよう土魔法での移動妨害に専念した。 「……充填完了、掃射範囲提示、射線上ノ味方ハ退避願イマス」 普段の幽太郎とはまるで異なる口調で退避勧告がなされた。そして。 「荷電粒子砲、発射開始」 幽太郎の口から青白いビームが放たれた。それは西岸南崖下のマキーナを一瞬で消し飛ばし、さらに南から接近しつつあったマキーナ達をも壊滅させた。 幽太郎の一撃は、崩壊寸前だった戦線を一時的にだが持ち直させた。少なくとも10分は立て直しに費やせるだけの余力をもたらした。が、あれだけの攻撃をされてマキーナが黙っているわけもなく。 「オニイサマ!」 大量のロケット弾に榴散弾、大型ミサイルが幽太郎に殺到する。榴散弾が効くかどうかはともかくとして、機関部がオーバーヒートでもしているのか幽太郎の動きは鈍い。なんか煙出てるし。 「う~、りゃーーっ」 駆けつけたオズと共にギィロが持ち上げ、2人がかりで幽太郎を安全圏まで空輸してどうにか難を逃れた。ついでに魔法で冷やしてみると、ほどなく動きは回復した。さすがにメインシステム回復とまではいかなかったが。 time14:20 ウラジーミル 一時は大幅な戦力減となっていたマキーナだが、増援により再び勢いを盛り返していた。とはいえ本隊到着予定まで15分、粘るだけならどうにかできそうでもあった。 「なあ、モノは相談なんだが……」 ギルはウラジーミルの隊長にちょっとした作戦を提案し、次いでギィロに声を掛けた。 「よぉボウズ。残り15分、俺達でマキーナ食い止めてみようぜ」 「やるやるー」 ノリノリで食いついたギィロと共にギルは南の崖へ。他のカンダータ兵は全て渓谷の崖へと向かった。 作戦は単純で、2人の姿をあえて敵に見せることで南の崖下を進行中の敵に攻撃させるというものだ。あえて攻撃させることでその分進行速度を低下させ時間を稼ごうというのだ。リスクは大きいが残り15分ならどうにかなるとギルが半ば強引に押し切って承認させた。もちろんその他の足止め策も総動員だ。 「そういやボウズ、魔法で色々出来るみたいだが地雷とか出せねぇのか?」 「地雷ってなんだー?」 「踏むと爆発する兵器だ」 「おー、出せるぞー」 出せるのかよ、と聞こえていたカンダータ兵が思わずツッコミを入れた。地雷は足止めの基本である。とはいえ本人にその発想がなかったのだから仕方ない。 地形の関係で東からの敵に対しては手薄になるが、侵入数が少な目なので渓谷両岸からの攻撃で十分間に合う。ギィロはギルの指示通りに地雷を南の崖下一帯に敷き詰め、次々と引っかかる敵に対してあえてヒット&アウェイのタイミングをずらして自分達を攻撃させた。読み通り攻撃の際にマキーナは足を止め、地雷と合わせて進行速度を大幅に遅らせることに成功した。 巧みな立ち回りで周辺のディスプレイ表示がとうとう真っ赤になるまで稼いだ時間は約10分。南の崖で稼いだ時間なので、渓谷北口までの所要時間を考えれば十分な時間稼ぎだった。 time14:35 ギガント ウラジーミルのロストナンバーによる時間稼ぎで、渓谷北口の危機的状況は大分改善された。とはいえそろそろその効果も切れ、再び16機のマキーナがギガントへ接近していた。 ニコルとオズはこれが最後と信じつつ、強襲と待ち伏せでマキーナを撃破していった。時にはど真ん中に飛び込み、時には背中を駆け上り、斬撃や指向性爆薬、0距離射撃も交えながら順次撃破していく。だが、とうとう耐久力の高い亀型2機がロストナンバーを振り切って渓谷北口まで辿り着いてしまった。 最後の最後で――そう思った2人の目の前で亀型の1機が大量のミサイルを浴びて爆発四散した。 『すまん、待たせた。全員無事か?』 「おかげさまで撃墜数を稼げたよ」 やっとの事で辿り着いた本隊に少佐は悪態をついた。戦車団が主砲から125mm徹甲弾や対装甲ミサイルを放ち残りの1体も火だるまに変えた。 「イワン・ロゴフより各隊へ、味方本隊が到着した。順次交代しろ」 少佐から各部隊にに交代が告げられ、ようやく地獄の持久戦を脱することが出来た。勝利や作戦成功を祝うより、皆助かったという思いの方が強かった。 エリアマップの接近中戦力は5部隊にまで減っていた。マキーナの撃破数は800を越えていた。 time15:00 西岸高地 ニコルはウラジーミルに所属していた偵察車に腰掛けていた。黒くすすけたウェディングドレスが激戦を物語っている。 「気に入らないんだ」 レネクト北東域の占拠を確実にするための周辺の残敵掃討を眺めながら、ニコルは呟いた。 「マキーナも、その向こうにきっといる……誰かもさ」 今回は尻尾をつかめなかったけど、その内、必ず。 そんな呟きは聞こえていなかったのか、ニコルを見つけたギルが声を掛けてきた。 「よっ、嬢ちゃん。メシでも食いにいかねぇか」 「あれ、こんな所でナンパ?」 「ちげぇよ。増援が遅れたお詫びにあっちの指揮官に奢らせるんだとよ。可愛い部下と大事な客人を苛めた落とし前らしいぜ」 「あはっ、そりゃ違いないよね」 やり取りを想像して思わず笑ってしまった。まあでも。 「待ち合わせに遅れたお詫びくらいはして貰わないと」 「おーい、飯だぞ飯ー」 「今行くー」 お腹を空かせたギィロの呼び声に、2人は食事を用意しているという装甲列車へと歩いていった。 ちなみに。 「オニイサマ、無事でしたか」 「ウン、大丈夫ダヨ……トコロデ、ボク荷電粒子砲ナンテ撃ッタノ? 何モ覚エテイナインダ」 そんなやりとりがあったとかなかったとか。
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