クリエイター霜月玲守(wsba2220)
管理番号1210-26337 オファー日2013-11-11(月) 06:15

オファーPC マスカダイン・F・ 羽空 (cntd1431)コンダクター 男 20歳 旅人道化師
ゲストPC1 七代・ヨソギ(czfe5498) ツーリスト 男 13歳 鍛冶職人

<ノベル>

 マスカダイン・F・羽空は、こんこん、と鍛冶屋のドアを左手で叩く。
 右手は、左胸ポケットにそっと触れている。
「はいはーい」
 中からのんびりした声がし、ドアが開く。そこには、七代・ヨソギが立っている。
「ピエロさんじゃないですかぁ」
 ヨソギは笑い、中へと促す。羽空は、にこっと笑い、ヨソギの誘いを受けた。
「いきなりどうしたんですかぁ?」
 こぽこぽとお茶を入れつつ、ヨソギが尋ねる。羽空は「実は」と言いながら、左胸ポケットから懐中時計を取り出し、机上に置く。
「ああ、ボクが屋台で出した、懐中時計じゃないですか」
「うん、パヴロくん」
 羽空は、優しい目を向ける。
 手にすっぽり入る、鋼の懐中時計だ。毎日のゼンマイ巻きは欠かせない。
「綺麗に使ってくれているんですねぇ」
「もちろん。ほら、ちゃんとロケットペンダントもつけてるよ」
 懐中時計につけてる、はと丸型のロケットペンダントが、きらりと金色に光る。これも、ヨソギが作ってくれたものだ。
「じゃあ、今日はオーバーホールですか?」
「ううん。あ、いや、それもなんだけど。お願いがあるのね」
 羽空はそう言いながら、じっとヨソギを見つめる。
「ボク、自分でパヴロくんのお世話ができるようになりたいんだ」
 羽空の言葉を聞き、ヨソギは「あれ?」と不思議そうに首を傾げる。
「ボク、いつでもメンテナンスしますよぉ?」
「そうじゃなくてね、自分でやりたいのね。ボクが、どの世界に行ったとしても」
 あ、とヨソギは気付く。そういう意味か、と。
「それとね、おさかなさんの腕は、精巧なカラクリ細工も得意じゃない?」
「そこは自信がありますねぇ」
「ボク、手品の道具を、自分で作れるようになりたいのね!」
 羽空は、目をキラキラさせながら言う。
 今までは、店で購入したり、他の人から借りたりして手品をしてきた。だが、ヨソギに技術を習えば、自分の手で作り出すことも可能だ。
「ボク、自分の手で道具を生み出せるようになりたいのね」
「なるほどですぅ」
 こくこく、とヨソギは頷く。続けて、ずず、と自らが入れた茶を啜る。
「ピエロさんの気持ちは分かりました。だけど」
 こと、とヨソギは茶の入っている湯飲みを机に置き、一息ついてから言葉を続ける。
「ボクが持っている技術は、ボクの一族が何百年もかけて、磨いて作り上げてきたものです」
「そうなんだ」
「さらに、種族の体格や特性があって、初めて本領を発揮できるものなのですぅ。教えるとしても、何十年も時間がかかります」
 ヨソギの言葉に、羽空は「そっか」とだけ答える。それでも、諦めている表情ではない。何かしらの方法を探るような目をしている。
 ゆるぎない、とヨソギは小さく微笑む。羽空の意思に、揺るぎなどは感じられない、と。
「基礎だけは」
「え」
「鍛冶師の基礎だけは、頑張れば教える事ができると思いますぅ」
 ヨソギの言葉に、羽空の目が輝く。
「基礎さえ身についていれば、パヴロ君の修理くらいなら、こなせると思いますぅ」
「そう……そう、なのね。うん。基礎、大事なのね」
「もちろんですぅ。基礎さえあれば、そこから先はピエロさん一人の力で、技を磨いていくことも出来るでしょう」
「ボク一人の力で?」
「はい。新しく物を作ることも、きっとできるようになりますよぉ」
 ぱあ、と羽空の顔がほころんだ。ヨソギもつられて笑う。
「ボク、頑張るのね。だから、教えて欲しいのね」
「了解しましたぁ。でも……ボク、きびしーくいきますからねぇ?」
「うん、分かってるのね」
「本来は、数年かけて身につけるものですからねぇ?」
「それも、分かってるのね。そっか、ボクの力で」
 くすくすと羽空は笑う。これからの事を考えた時、不透明に見えた部分が少しだけ明るくなったのだ。
「じゃあ、それを飲んだら始めますよぉ」
 ヨソギはそう言いながら、すっかり湯気がなくなったお茶を指す。羽空は「あ」と言いながら、湯飲みをあおる。
「出して貰ったのを、すっかり忘れてたのね」
「それだけ、気持ちが張り詰めていたんですよぉ」
「うん、そうなのね」
 ほう、と息を漏らしながら羽空は言う。ヨソギの入れてくれた茶は、冷めても心を落ち着けるには十分であった。
「鍛冶師の基礎は、まず道具を確認するところから始めますよぉ。本当は、ピエロさんが自分の手に合ったものを使うのがいいのですけど、時間がかかりすぎるのですぅ」
「おさかなさんの道具は、トラベルギアも兼ねてるんだっけ?」
「それもありますよぉ。だけど、そうじゃないものも沢山在るんですぅ」
「やっぱり、自分が使う道具を探すのって、難しいのかな?」
「そうですねぇ。ボクの場合は、作っちゃうんだよねぇ」
「ああ、そっか。おさかなさんは、何でも作れるんだよね」
 うらやましそうに、羽空は言う。ヨソギの鍛冶場に揃っている道具達は、どれもヨソギのためにヨソギによってあつらえた物たちだ。
 しかしそれらが揃っているのは、ヨソギが鍛冶師としての基礎を踏まえ、技能をふるえるからに他ならない。
 それを、自分も出来たら。
 羽空は思わず、ぎゅっとパヴロくんを握り締める。
「慌てる必要はないのですぅ」
 ヨソギの言葉に、はっとしたように羽空は握り締めた手を緩める。
「ボクだって、最初から道具を作れたわけではないのですぅ。基礎を身につけ、道具を色々試して。失敗して。たくさん努力して。いろんなことを経て、ようやく今に至るのですよぉ」
 にこにこ、とヨソギは言う。
「ボクにも、できるよね?」
「当たり前じゃないですかぁ。勿論、ボクがあげられるのは、無垢の技術の原石ですけれど」
「無垢の、技術の、原石」
 噛み締めるように、羽空はヨソギの言葉を繰り返す。
「どんな宝石だって、原石が無ければ何者にもならないのですぅ。そして、そこから磨くのは磨く人次第ですよぉ」
「ボクが、磨く」
「はい。磨いて形にするのは、ピエロさん自信ですよぉ」
 真っ直ぐに、羽空はヨソギを見つめた。鍛冶場にやってきたときよりも明確に、意思と光を携えて。
「改めて、おさかなさん。ボクに、鍛冶師の基礎を教えて欲しいのね」
「分かりました。じゃあ、始めましょうかぁ」
 湯飲みが空になっているのを確認し、ヨソギは立ち上がる。続けて、羽空も。
「パヴロくん。ボクが、お世話をするからね」
 愛しそうに、羽空はパヴロくんの丸みを帯びた縁をなぞる。そうして、すっぽりといつもの左胸ポケットに収めた。
 今日は、ヨソギにオーバーホールを頼むことになるだろう。まだ羽空には、その技術を持ちえていないから。
 しかし、見て学ぶことは出来るはずだ。こうしてヨソギの元で教えて貰うということは、ヨソギが行う一つ一つの作業でさえ、学びに直結するのだから。
(パヴロくんが、もし、壊れてたとしても)
 想像なんてしたくない。ちゃんとメンテナンスを欠かしていない上、パヴロくん自体が壊れるはずが無いと思っている部分もある。
 だが、それでも、万が一ということがあるかもしれない。
 その時、まだヨソギにこうして会えるなら良い。または、別に腕の良い鍛冶師に出会えているなら良い。
 しかし、そのどちらの可能性も無かったとしたならば。
(パヴロくんを壊れたままにしておけるはずが無いのね。パヴロくんだって、自分の仕事をしたいはずだし)
 可能性の有無を考える前に、自らが修繕できることが一番だ。こうして頼むオーバーホールだって、自分で出来ればより一層良い。
 パヴロくんは、友達や、弟や、相棒のような存在へとなっているのだから。
(手品の道具だって、作りたいしね)
「ピエロさん、左から並んでいる道具を、説明しますねぇ」
「うん。お願いするのね」
「道具は、自分の手の代わりともいえますぅ。だからこそ、大事に、そして的確に使わなければ意味がないのですよぉ」
 ヨソギはそう言ってから、道具の説明を始める。
 一つ一つ、見たことはあるが用途が分かっていなかったり、名前すら知らなかったり、といったものが並んでいる。
 そして、想像以上に量が多い。
「覚えられるかな?」
「覚えるんですよぉ」
 少しだけ不安そうに言う羽空に、ヨソギはにっこりと答える。思わず羽空は「それもそうだね」と吹きだす。
「まだ、始まったばかりだもんね」
「そうですよぉ」
 羽空とヨソギは、顔を見合わせて笑った。
「メモを取っても、いいかな?」
「それはいいですけど、どうせなら使いながら覚えてほしいですねぇ」
 ヨソギはそう言いながら、道具の中からいくつか手に取る。
「一気に覚える必要はないのですぅ。少しずつ、だけど着実に覚えてください。知識はあって困るものじゃないですけど、それだけじゃ道具を使うことにはならないですから」
「道具は、手の代わりになるから?」
「その通りですぅ。間違えたら、びしっといきますからねぇ」
 にやり、と少しだけ意地悪そうな顔で、ヨソギは微笑む。
「望むところなのね」
「その意気ですぅ」
 ぱちぱちと火の粉が弾かれる部屋の中で、ヨソギと羽空は笑いあう。
 これから、鍛冶師の基礎をヨソギにみっちりと教えて貰うことになるだろう。どれだけかかるかも分からないし、どれだけ教えて貰えるかもまだ分からない。
 それでも、一歩前へと進んだのは確かだ。
(ボク、頑張るよ)
 きゅ、と左胸ポケットを握り締め、羽空はパヴロくんへと囁く。
「さあ、次々いきますよぉ!」
 ヨソギはどこか嬉しそうにそう言い、道具の説明を始めるのだった。


<未来への一歩を踏みしめ・了>

クリエイターコメント この度は、プラノベを発注してくださり、有難うございます。いかがでしたでしょうか。
 少しでも気に入ってくださると、嬉しいです。
 それでは、またお会いできるその時まで。
公開日時2013-12-02(月) 21:10

 

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