何なんだよ、この世界は。 風が弱すぎて、飛べやしない。 広い砂漠も力強い岩山もない。鬱蒼とした緑が多すぎて気持ち悪いし、白いうるさい鳥どもがうじゃうじゃ飛んでて、とてもイラつく。 そして——そして。 何よりも、ぼくの翼を空にいざなってくれる、強い風が吹いてくれない。 こんなところに、来たくなかったのに。 真理なんて、どうだっていい。知りたくなんかなかったよ。 世界のなりたちがどうとかなんて、王立研究所の学者みたいな頭のいい大人にしか関係ないことじゃないか。 なんで、ぼくなんだよ。なんで、兄弟の中で、ぼくだけがここにきたんだよ。 焼き払ってやる、こんなうざい緑の山なんか。 群れて飛び回っている白い鳥共も、巣の中でぴぃぴぃ鳴いてる小さいやつらも、全部全部、燃やしてしまえ。 * * *「壱番世界のとある無人島に転移した美少年が一匹、逆ギレして巨大怪獣と化して火ぃ吹いてるんで、大至急、取り押さえて捕獲連行していただきたいんですけどー、って、あれ? ちょっとちょっと皆さん。何で目ぇ合わせないでささっと他の司書さんとこ行っちゃうのぉ〜? あたしんとこ来てくださいよぉ〜〜」『導きの書』を広げ、無名の司書は声を涸らして依頼参加者を募っている。 が、ロストナンバーたちの反応はあまりよろしくない。「……なぁ、無名の姉さん。おれが言うのもアレだけど、依頼はわかりやすくしような? すげぇ参加しにくいぞ」 たったひとり、冒険旅行行きたがり属性なシラサギのギャルソン、シオン・ユングだけが相手をしてやっている始末だ。「わかりやすいじゃん。だからね、美少年がね、壱番世界の特撮映画ふう翼竜怪獣状態で、無人島で大暴れ」「美少年から離れろよ。巨大怪獣化して火ぃ吹いてんなら、それ、美少年じゃねぇだろ!」「本来は13歳の金髪碧眼の美少年なのよぅ。シオンくんみたいな有翼人タイプの。翼竜族のわがまま王子様でねぇ、末っ子なもんだから、7人の兄王子たちがべったべたに可愛がって甘やかしてたみたい」 ミシェル・ラ・ブリュイエールは、常に強風が吹く岩と砂漠の世界で、兄たちと大空を駆け、充実した日々を過ごしていた。突然の転移に混乱し、状況を受け止め切ず、当たり散らしている状態のようである。「ミシェルのいた世界では、まだ未発達の翼でも、強風が助けてくれて飛べてたようなの。でも、壱番世界の風速だと、子供の翼竜は満足な羽ばたきができないし、重力と空気抵抗に負けて落ちてしまうのよ」「あぁ……。ストレスもあって当たり散らしてるのか。落ち着くまでほっとけばー? 無人島だし、被害も少ないだろ?」「それがねぇ、そういうわけにもいかなくて」 無名の司書はずずいと身を乗り出す。「この島はシラサギの繁殖地でもあってね。このままだと、サギ山がひとつ、全滅しちゃうの」「サギ山?」「シオンくんは異世界のシラサギだからピンとこないかもだけど、壱番世界のシラサギは、繁殖期にはコロニーを形成するの。それが『サギ山』。……っと、『シラサギ』は総称だから、細かいこといえば、ここにいるのは小鷺(コサギ)って種類。ともかくたくさんのシラサギが集団生活してて、ヒナも生まれ始めてる季節なわけよ」「なんだとぉぉーー!」 シラサギの大群と、ヒナ鳥がピンチと聞いて、俄然、シオンはやる気を出した。「わかった、すぐ行く今行く! なんだその自己中なクソガキ。生まれたてのヒナを虐殺してみやがれ、ただじゃおかねぇ! ぶん殴って蹴り倒して半殺しにしてやる!」「無理無理無理。シオンくん戦闘力ゼロじゃん。踏み潰されるか焼き鳥になるかだよー! すみません、誰か、誰かぁーーー!」 駆け出そうとするシオンの羽根をひっつかんで、無名の司書は、もう一度辺りを見回した。 * * * 兄たちが、いない。誰もいない。 風の弱すぎる、ろくでもない世界で、重い翼を無様に引きずりながら—— ぼくは、ひとりぼっちだ。
ACT.1■大人たちの想い 「俺が行こう」 心に染みいるような声の響きに、司書ははっとして羽根を掴んでいた手を離し、シラサギを解放した。 歩み寄ってきた蓮見沢理比古は、シオンの肩に軽く手を置く。 「……話を聞いて、いてもたってもいられなくて。兄さんたちに大事にしてもらってたミシェルが羨ましいけれど——だからこそ、苦しいんだろうなとも思ってね」 「そっか。助かるよ。あんた、強そうだもんな」 「——どうかな?」 理比古の目元が、ふっと緩んだ。灰の瞳が光を反射し、銀にきらめく。その表情は、もともと童顔のコンダクターを、いっそう若々しく見せる。 「成る程。異世界出身とはいえ、君主の血に連なる王子が、困ったものだ。年長者の叱責が必要だろう」 黒革のロングコートをふわりと揺らし、静かに現れたのはボルツォーニ・アウグストである。闇が大きな翼を広げ、一瞬後にはひとのかたちに収斂したような、そんな独特の気配とともに。 「私にも、チケットを発行してくれたまえ」 「は、はい、いますぐ……」 素晴らしい響きのカリスマヴォイスを耳元で聞くことになった無名の司書は、がっくんと膝を折る。 「……あれ? 何であたし、腰砕けてるんだろう……?」 「大丈夫ですか、司書さん? 立てますか?」 「……はい。ご親切に……。まあ、あなたは……」 知的で紳士的な声がけに振り向けば、そこにはワーブ・シートンがいた。もし、二足で立ち上がったら3メートルは超えようと思われる、大きな灰色熊である。 間近で見るグリズリーベアの豊かな毛並みと、何ともいえぬ包容力に、司書はうっとりと両手を組み合わせた。 「ワーブさんも、行ってくださるの……?」 「どんな理由があろうと、自然を破壊する行為は不届きですよ。説教かけますよ」 「ま……。なんて頼もしい」 「翼竜か。やー、昔、兄弟たちといたとき、戦ったなぁ」 ホタル・カムイが快活な声を上げる。 燃え上がる炎にも似た腰までの赤毛と、全身を彩る炎を意匠化したような刺青が目を惹く。それは、美しい女性のすがたを暫定的に取っているホタルが、もともとは炎の剣の守護者であったことを表していた。 「おっ、ホタル姉さんだ。姉さんも一緒か? やったね!」 外見が女性ならノープロブレムなシオンは、きっぱりはっきり、ホタルを姉さん呼ばわりした。 「その子、甘えん坊の末っ子なんだってね。だったら、私の負った悲しみと同じもんだけは……、背負わせたくないねぇ」 「昔、何かあったの?」 「ああ。世界丸焼きにしたことがあるんだよ、私」 「姉さんッ! 冒頭からヘビーなカミングアウトだな。さすが旧太陽神」 「……焼いた後、後悔するんだよ、あれは」 ホタルは、何かを振り切るように右手を握りしめ、開いた左の手のひらに軽く打ち付ける。 「さってと、私に出来ることといえば……拳で語れぇ、だ!」 旧太陽神の言葉を合図に、一同はホームへ向かう。 ACT.2■山火事阻止! 珊瑚礁に囲まれた、絶海の孤島である。 島の周りには、真っ白な砂浜が広がっていた。砂は全て、サンゴのかけらと貝殻で構成されており、長い年月をかけて出来上がったもののようだ。無人の環境がさいわいして、海は澄み切ったコバルトブルーを保っている。 平地はわずかで起伏が激しく、島全体が雑木林に覆われており、豊富な植物層はサギ山の形成に適していた。 「ここが壱番世界ですね。綺麗な海と空ですよ」 ワーブは、壱番世界を訪れるのが初めてであるらしい。しみじみと感慨をもらす。 「こんなところを燃やす馬鹿を、見つけなくてはね」 「おそらく、あの大木のそばにいる」 灰色熊のつぶやきに、ボルツォーニは眉ひとつ動かさず、しかし厳しい表情で指先を島の中央に向けた。 不死の君主の指摘どおり、黒い煙がもくもくとあがっている。樹齢300年は超えようかと思われる杉の大木が、今まさに炎上しているところだった。 そこに——金色の翼竜がいた。 翼をだらりと下げ、どしん、どしん、と、乱暴に歩くたび、樹木は次々に倒れ、驚いた小鳥たちが悲鳴を上げて飛び去る。 「ちくしょう。ちくしょう」 ときおり、巨大なペリカンに似た嘴が開き、炎が吐かれる。ぱちぱちと音を立てて、楢や檜の林が燃え上がっている。 「こんな世界、大嫌いだ。みんな燃えてしまえ!」 島の複雑な地形は気流が安定せず、いまのところは局地的な火事に留まっており、類焼の拡大はなさそうだが—— 「あーあ。子供がだだをこねてるみたいだなぁ」 ホタルが腕組みをする。 「あれが翼竜ですか。……見たことない形状していますよ」 身勝手な怪獣を、ワーブが睨みつける。 「たしか、周りから聞いたことはありますよ。こういうの、壱番世界にも大昔にいたそうですね。プテラノドン——でしたっけ。もう絶滅してしまったそうですけれど」 「中生代白亜紀後期、だったかな」 壱番世界出身の理比古が補足する。 「実際にいた翼竜も、本当は飛べなかったんじゃないかって仮説があるね。大きければ大きいほど、翼竜としては最大のケツァルコアトルスとかは特に」 「……気流が変わりそうだ。まずいな」 普段は折りたたんである赤色の両手棍を、ホタルは構えた。 「このまま火を吐き続けられると、危険な燃焼動態になる。島西部の斜面にあるシラサギたちのコロニーまで火勢が広がってしまう」 「——へえ、カムイ姉さん。サギ山の位置、わかるんだ?」 シオンが目を見張る。 「感覚で、なんとなく。シオンさん、鳥たちの避難誘導お願いできるかな?」 「姉さんのご指示とあらば、喜んで」 大仰に礼をし、身を起こした瞬間—— 有翼のギャルソンはかき消え、代わりに、特徴的な飾り羽根のある、一羽のシラサギが出現した。 鳥のすがたのシオンは、コサギという種によく似ているので、仲間として誘導するには適任だろうというのが、ホタルの判断だった。 「いつもみたいなオラオラ営業じゃだめだぞー。繁殖活動中のコサギのお姉さんたちを怒らせないよう、ちゃんと猫かぶれよ」 「了解。いってきまーす」 シラサギは飛翔し、サギ山に危険を伝えるべく、空を切る。 * * * 「火災の消火には、防火線を設定して可燃物の供給を絶つか、注水や遮壁で熱を下げるか、散土等で酸素の供給を絶つ方法が考えられるが——」 できることは限られているのでね、と、言いながらボルツォーニは空を見上げ、気を集中させる。 ——ほどなく。 島一帯は、濃霧に包まれた。 不死者の操る、魔霧である。蝋燭やたき火程度ならば、消してしまえる。 霧の効果で、林を席巻していた炎の勢いが、少し弱まった。 「効果範囲が広くていいね。これなら、延焼を遅らせることができる」 ホタルが感嘆の声を上げた。 「炎を完全に消すことは不可能だがね。豪雨でも呼べれば良かったのだがな」 ボルツォーニは苦笑する。 出身世界では嵐さえ呼ぶことができたのだ。しかし他の世界にあっては、馴染みのない自然霊の手助けを借りにくい。 この戸惑いともどかしさは、真理に目覚め、初めて知り得たことだった。 (おそらくは、あの竜もそうなのだ。その鬱積を吐き出す方法が、彼にとっては眼前の異物を攻撃することだったのだろう) 「あんなに暴れてるのに、寂しそうだ」 急に濃霧に包まれて、戸惑っているふうの翼竜を、理比古は見やる。 (ミシェルと兄さんたちは、きっととても仲良しで、愛したり愛されたりが普通だったんだろうな) その、身を切られるような切なさ。 理比古は、亡き兄たちを思う。愛してほしくて。家族と認めてほしくて。自分に出来る事は何だってしたけれど、異母兄たちは最期まで自分を殴る事をやめてくれなかったし、人前で兄と呼ぶ事すら、許してはくれなかった。 (待ってて。今、助けるから) ——助ける? 誰を。 ミシェルを? シラサギたちを? (もちろん、両方だ) 敏捷な動きで、翼竜目がけて理比古は走る。戦うためではなく、護るために。 小太刀【鋼丸】が『水』を呼ぶ。濃霧で衰えた火勢が、いっそう弱まった。 加えて『風』の力を使った。 風は見えない障壁となり、シラサギのいる西部の斜面へ、炎が流れるのを防ぐ。 「……なに? なんで火が消えるの? ちくしょオォォオオー!」 翼竜は息を吸い込む。 新しい炎を吐くつもりらしい。 ACT.3■拳に愛をこめて ボルツォーニは、ミシェルが逆上したことを見て取った。 「納得のいくまで暴れさせてやっても良いが、被害を最小限に抑えることも依頼の内容だ」 少しだけ、本当に少しだけ、口元を緩める。 「暴れるにしても、相手がいた方が面白い——そうだろう、少年?」 ……私も、そうだからな。 手に5cm角の魔鋼を乗せ、ボルツォーニが呟いた瞬間、それはがしゃりと音を立てて、大ぶりのメイスに変形した。 武器の扱いに長けた彼ならではの、自ら錬成した魔鋼から成る、魔術武器である。 火山流のような轟音が響く。熱風が濃霧を散らす。 翼竜の口から、激しい炎が放たれたのだ。 「止めよう!」 真っ先に突っ込んだのはワーブだった。 「鳥さんが危ない。こいつ、止める」 ヴォオオオオ!!! 灰色熊は真っ向から、翼竜に突進した。 大地を揺るがすような叫びとともに、【ポラリスの爪】を、彼のトラベルギアを、その豪腕怪力で翼竜に振るう。 翼竜は動きを止めた。 足に食い込んだ鉄の爪は、思いのほか深く、激しい痛みをもたらしたからだ。 「……熊か。ふぅん。こんな手強そうなのもいるんだ? ろくでもない世界にしては、気が利いてるじゃん。ぼく、強いヤツ、好きだよ。……でもさぁ」 ワーブに向き直り、翼竜はおのれの鉤爪を振り上げる。 「邪魔されるの、嫌いなんだよ!」 あわや、灰色熊の頭上に、鉤爪が刺さろうとしたが—— 赤い両手棍が、それを止めた。 しばらく間合いを計っていたホタルが、頃やよしと、突っ込んできたのだ。 「なんだよあんた!」 「ははは、炎の特攻隊長をなめるな」 棍を持った手を、ホタルはびしっと、ミシェルに向ける。 「でもまあ、昔より力使いづらくなってるなぁ。膝の関節狙ったつもりだったんだけどなぁ」 ホタル姉さんはふぅと溜息をついた。 「あのさ、いい加減にしろよ。鳥たちにも、悲しみを背負わせるつもりかよ」 「そんなの、関係ない」 「関係おおありだ。離ればなれになったって、生きてれば会える可能性があるじゃないか。こちとら、どの世界を探したって、もう兄弟には会えないんだぞ」 「あんたの兄弟、しんだ、の?」 「まあな。自然の中に眠ってるっつーか」 なぜかホタル姉さんの行くところ、空からいきなり水振ってきたり、突然吹雪いてきたり、落雷にあったりすることが多いのだが、それらは兄弟からの愛あるツッコミと解釈している。 「そんなわけでアズマ、力を貸しやがれー!」 棍を片手に持ち替えたたホタルの、空いた片手に、ぱちぱちと電流が宿る。 放たれた電撃は、翼竜を包み込み、その動きを鈍くした。 ——だが。 そうなってなお、ミシェルは臨戦態勢だった。 彼の目は、ボルツォーニと、手にした武器に注がれていたのである。 不死者の戦いぶりは、彼らしく老獪だった。 最初、ボルツォーニは皆と同じように正面から突っ込むと見せかけた。 そして、振り上げられた鉤爪を、寸前でかわしたのだ。 右に左に、ボルツォーニは敏捷に動く。翼竜は何度も何度も鉤爪で狙っては、取り逃がす。 身の軽い鳥のように跳ね回る、当たらない小さな的。 まだ電撃の効果が続いていて、本調子ではないミシェルは、じれったさにしびれを切らした。 またも翼竜は、大きく息を吸い込む。 「火、吐きますよ!」 ワーブが注意を促す。 しかし、炎のブレスを誘うことこそが、ボルツォーニの作戦だったのだ。 不死者目がけて吐かれた炎を、彼は難なく避ける。 炎を放つタイミングと有効範囲、そして巨体が作り出す死角を、ボルツォーニは見極めた。 一気に背中から首を渡り、頭へと駆け上がる。 「熱くなるのも分かるが……、頭を冷やせ」 翼竜の頭蓋骨を揺るがす、一撃。 それは、ずっと甘やかされてきた王子が初めて見舞われた——大人のゲンコツだった。 ACT.4■新しい世界の『家族』 ミシェルの頭を冷やしてやろうと考えた大人は、もうひとりいた。 理比古である。 彼は、拳で語りあってる皆の横を擦り抜け、翼竜の背中に飛び乗った。背中を伝って頭部まで登り、そこで『氷』の力を発動し、言葉通りに「冷やした」のである。ちょうど、ボルツォーニのゲンコツが炸裂した直後であった。 衝撃を受けたミシェルは、すっかり戦意喪失した。 理比古はすぐに氷を砕き、その首に抱きつく。さすがの蓮見沢家当主も、力の使いすぎで疲労困憊だった。 「ミシェル。俺も会いたい。……俺も、兄さんたちに会いたいよ」 「あんたの兄さんも、死んだの?」 「ああ。だけどミシェルの兄さんたちは生きてるんだろう? いつか会えるよ。俺も手伝うから故郷を探そう。寂しいままで、たったひとりで終わらせちゃ、だめだよ」 「……まだ、よく、わからない、けど……」 「おいらだって、子供のときは、同じ日に生まれた双子がもう1頭いたんだよ。でも、大人になれば、別れることになるんだよ」 ワーブが、目を伏せて呟く。 「おいらは成長して、兄弟と別れたんだよ。それが自然なんだよ。それでも、すがりたいか?」 言いながら、しかしワーブは困惑していた。今は別れ、ライバルとなった、同じ血を引く兄弟に会いたくなってきたのだ。だが聡明な熊は、それ以上は考えないことにした。 「不安だったら、俺を頼ってくれてかまわない。血が繋がっていなくても『家族』にはなれる。俺はそんな大事な家族が、何人もいるよ」 理比古をじっと見つめ、翼竜は小さく頷く。 「とりあえず、美少年に戻ってくれないかな? あの列車に乗って私たちと帰ろう。司書さんが会うのを楽しみにしててねぇ」 すっかり、陽は傾いている。 ホタルは、夕陽を反射したロストレイルを指差した。 * * * ところで。 一同は、まあ適当にやってるだろうと思い、シオンのことを忘れていたのだが。 彼は彼で、避難誘導後、鋭意繁殖したいお年頃のコサギ嬢たちに囲まれ、危機に陥っていた。 「うわ、いやちょっと、コサギの姉さんがた。いくら今年、オスの絶対数が足りないからって、おれは無理。無理ですってば。繁殖活動にはご協力できません! 恥かかすなって言われても、何故ってそんな、だから、大人の事情が」 はたしてシオンは帰還できるのか。 謎は謎を呼び風雲急を告げるが、本編には関係ないので以下略。 ——Fin.
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