インヤンガイに落ちた世界計の欠片を脳に所持した状態で保護されたキサ・アデルは力のコントロールが出来ると司書から判断されて再帰属が決定した。 ロストレイルが地下にある駅に到着し、地上にあがると太陽の眩しい日差しが出迎える。「キサは、インヤンガイに帰りたい」 駅から一歩出てキサは目を眇める。「キサは、待ってる人がいる」 一歩、また進んでキサは呟く。「……けど私は」 キサは護衛であるロストナンバーたちの和やかな笑顔や呼びかけに突如足を止め、逆方向に走り出した。 誰も彼女を止めることは出来なかった。 どこをどう走ったのかは覚えていない。建物の密集した路地のなかで息を乱したキサは立ち尽くし、胸の上に光る小さな鍵のついたアクセサリーを握りしめた。「私は、まだ消えたくない。みんなといたい。私は……私は、私は……私は、……!」 ――見つけ、タ 不気味な囁きがキサを飲み込んだ。 彼女を探して、ようやく追いついたロストナンバーが見たのは昏い路地に佇む少女だった。その瞳は妖しく輝き、口元ににっと笑みを浮かぶ。「すばらシい、これほどノ力とは! ワタシの所有する記録、すべてヲ使っテ、今度こそ! 星を手に入れヨウ、イヴ! 今度こそ、星にだって手が届ク! 死者だって蘇ル、この落ちてきた星の知識と力を使っテ!」 めきぃと音をたてて少女の内側から出現したのは薄い紫色の化け物――チャイ=ブレ? と誰かが囁くが、こんなところにそんな化け物がいるはずがない。 だが、少女は完全に蚕じみた化け物に飲み込まれ、その姿は見えなくなっていた。 化け物は嘲笑う。それに合わせて空気は響き、割れ、何かが、 ――さぁ、死者の門を開キましょウ?★ ☆ ★ 緊急事態としてロストナンバーを集めた世界司書は深刻な顔で語った。「理由は不明だが再帰属するはずだったキサはインヤンガイにつくなり、逃亡した。その結果、インヤンガイのネット上で記憶を食べると言われるチャイ=ブレに似た化け物に捕まり、利用されている」 インヤンガイでたびたび起こった神隠し事件に関わっているチャイ=ブレに似た化け物は記憶を食らう。それは過去世界樹旅団がインヤンガイに放ったワームのデータを元に強欲な一部のインヤンガイの者たちが術と霊力によって作った劣化コピーだと推測されている。 その飼い主であるイヴという少女は大切な人を失って、死者を蘇らせようとした。霊力をエネルギーとするインヤンガイのサイバーシステムには悪霊が入り込むことからヒントを得て、魂のソフトウェア化を企んだのだ。しかし、それは失敗した。 飼い主であるイヴを亡くした化け物はたった一匹で暴走をはじめた。 己の持つ記憶を正しく使うことのできる世界計の欠片を所有するキサを襲った。 キサの所有する欠片は力を与え、吸収し、生み出すこと。「化け物はキサの欠片から知識と力を得て、自分の所有する死者のデータ……インヤンガイに死者を復活させた。これはすぐに鎮圧する必要がある」ミ☆ ミ★ ミ☆ ミ★ ミ☆ ミ★ 「と、言うわけで作戦行動を開始します」 状況の説明が終わるとリベルは扉越しに宣言した。 どう見ても不自然な状況に首をかしげているとリベルはそのまま扉を閉める。 程なく、かちゃりと金属音。言うまでもなく、鍵をかけられた。 十数人が打ちっぱなしの白いコンクリ壁に囲まれた何も無い部屋に閉じ込められた形である。「過去の経歴上、貴方がたをインヤンガイに送るのは危険と判断しました」 リベルの声は扉越しに聞こえてくる。 何故だと問うと返事が返ってくる、どうやらこちらの言葉は相手にも届くらしい。「インヤンガイでの散発的な一斉作戦となります。つまり、チームワークが大事です」 一瞬だけ口ごもる。リベルの最後の世間体が言葉を押しとどめた。が、理性が勝つのがリベルである。「現在の0世界の作戦従事には館長の方針でロストナンバーにはかなりの自由が許されています。その方針に異を唱えるつもりはまったくありません。 しかし、あなた達のようなメンバーを最前線にするのは今回の作戦において不利、そう判断しました。 つまり、ここにいるのはある程度、戦局に影響を及ぼすほどの力を持った上で、それがいい意味で発動するか悪い意味で発動するか分からない危険な存在です。 そして私は危険である可能性が高いと考えました。『とろとろ』のチーズカレーを賭けても構いません」 ――いや、そんなムチャな……。「そういうわけで皆さんの任務は待機です。いい意味で」 もちろん、どういう風にいい意味なのかの説明はない。「ですが、――以前もそうだったのですが――なぜかこういう時にロストレイルの乗車チケットを落とすという世界司書が現れます。おそらくは確実に」 それは部屋の片隅で、もごもご呻きながら蠢いている大きな――子供一人くらいなら入れそうな、麻袋と関係があるのかも知れない。 袋の口のあたりに見えるピンクの髪が中にいる「何か」のヒントかも知れないが、わりとどうでもいい。「皆さんがはた迷惑な存在であるという私の結論に対しての異論は認めます。作戦が終わった後にでも」 もちろん、異論を認めたから今、何が変わるというわけでもない。「今から……そうですね、作戦終了の通達があるまでここで待機していること、それが皆さんの任務です。皆さんの任務成功を心よりお祈りします」 カツカツカツ、と靴音が遠ざって。 リベルの返事は聞こえなくなった。 さて。 部屋の中は灰色の無骨なコンクリートに覆われている。 分厚そうな金属扉があるにはあるが、鍵がかけられている。 一人が物理的に破壊すりゃいーじゃんと言いながら扉を攻撃した所、衝撃がそのまま跳ね返ってきた。 血だるまになって転がっているが、なぁに、ここに集められるくらいのヤツだから放っておけばそのうちピンピンして蘇ってくる程度には非常識なやつだろう。 ピッキングを試みてもダメ、物理破壊、魔法攻撃は部屋の中に直接跳ね返ってくる。 瞬間移動を試みたヤツが、さっき部屋の天井近くに現れて床に落下した。 なるほど、一筋縄ではいかない程度の罠が仕掛けられているらしい。 さて、この部屋から脱出して、とっととインヤンガイへ行かねばならないようだ。――だって、面白そうだし!!ミ☆ ミ★ ミ☆ ミ★ ミ☆ ミ★ 舞台の説明はインヤンガイに移る。『美麗花園(メイライガーデン)』 かつて「死の町」と呼ばれた地区。『暴霊域』に指定され、有象無象の魂魄が互いを食らいあって鬩ぎ合うインヤンガイでも著名な地区であった。 ロストナンバーの活躍により、街区の建造物を大いに巻き込んで。――ついでにその時に同地区で作戦に従事していたロストナンバー達に多大な迷惑を与えつつ。 別に除霊するわけでも浄化するわけでもなく、ただひたすらに好き勝手に暴れて。 その結果、なんか状況がこんがらがっただけで特に収穫もなく。 ――なんというか散々なことになるという事件があった。 その暴霊の群れが今回の騒動に乗じて再び活性化しているという話が現地の探偵から舞い込んだ。その探偵は既に死んでいる。 しかし過去に訪れた時はエドマンドの行方を探るという事情があったものの、今回は特に押し入る必要はない。 なので、別に触れる気はないが、……とは言え、放置するのも気が引ける。 死霊が死霊を呼び、食い合って肥大化し、凶暴化する。そんな『ちょーつよ死霊生産工場』みたいな所を放っておくと他のチームの作戦にも支障をきたしかねないからだ。 が、リベルをはじめ、アリッサ達はこの街区を放置することに決めた。リスクのわりに成果は乏しいと判断されたからだ。 話の舞台は0世界、コンクリの部屋へと戻る。 エミリエは昔の「チケットを落とした司書」について語っていた。「いやー、あの時はねー。チケット落としちゃったー。てへー。って言えば何とかなると思ったんだよ! そしたら、リベルに問い詰められるわ、味方だと思ってたクズども……げふげふ、大切な仲間のロストナンバーの誰かが密告っちゃうしで! おかげであの後、エミリエはトイレ掃除を命令されたんだよ! 男子トイレのお掃除はいたいけな幼女がすることじゃないと思うんだよ!! それはまぁ、それとして。リベルの導きの書に『また、いらん邪魔するヤツがいるからな!』みたいな預言が浮かんだらしいから、こういうコトになっちゃったみたい」 けふん、と咳払いをひとつ。 先ほどまで麻袋をかぶっていたせいでピンクの髪には麻の端切れが大量に付着している。 口を覆っていた猿轡の跡が早くも消えかかっているのは肉体的な若さのせいだろう。 くふふふふふ、と唐突に不気味な笑みを浮かべたエミリエはすっくと立ち上がった。「と、ゆーわけで、この部屋から逃げ出して、インヤンガイへ向かいます!! ここにいるみんなの分のチケットはちゃぁんと確保してあるからね! 二十人がかりで、……がかりで……」 エミリエがポシェットの中をあさるが、肝心のチケットが出てこない。「ううううう、リベルのバカぁぁぁあああああ!!!!!」 そう叫んだことから察するに、先手を打って没収されていたらしい。「しょうがないなぁ」 ひとしきり嘆いてからエミリエは靴を脱ぐ。 左右の靴の中敷の下から一枚ずつ。 ついでに縛った左右の髪の毛、おさげの中から一枚ずつ。 合計四枚のチケットがエミリエの前に並べられた。 うう、いっぱい送ろうと思ったのに四枚しかないよう……。と泣きべそが聞こえる。 やがて、悲しみを振り切ってエミリエは顔をあげた。どす黒い笑顔(オーラ)が幼女の顔を覆い尽くしている。「……この中から四人、インヤンガイに行ってもらうからね! そんでそんで、目一杯暴れてきて! 美麗花園を阿鼻叫喚に包むつもりで!! 大丈夫! 前後の事情なんてエミリエだってよくわかってないけど、リベルがその気ならこっちはこっちで勝手に派手に暴れちゃおう!! ここから抜け出られた人、早いもの勝ちね!!! あ、それと、あとからリベルに怒られる時はここにいるみ~~~んな共犯だからそのつもりで頑張って!!!」 エミリエはやけくそに宣言した。==============================================================================!お願い!イベントシナリオ群『星屑の祈り』は同じ時系列の出来事となります。同一のキャラクターでの、複数のシナリオへのエントリーはご遠慮下さい。抽選後のご参加については、重複しなければ問題ありません。==============================================================================
ゼノと神が目の前で軽口を叩きあっていた。 横にはもっこもこのモモンガ(ぬいぐるみ?)がうにょうにょと蠢いている。 不気味な三人組と観測者のテリガンの周囲には数え切れるはずもない暴霊の群れ。 自分で考えていて、さっぱりと状況が分からない。分からないが、自分がクズ呼ばわりされ、この連中と一緒くたに隔離されていたのは理解できた。 つまりは、目の前にいる神やら横にいるうにょうにょした何かと同じよーな扱いにされたということだ。 テリガンの中で何かが吹っ切れる。 妙に晴れ晴れとした顔で手近にいた暴霊をひっつかむ。 もだもだ蠢く暴霊にテリガンは晴れやかな笑顔を向けた。 「ドーモ、クズ(ネコ枠)です。先日はオイラめっちゃ頑張ったのに、大魔王のHPを1%も減らせなかった挙句。その魔王に説教された上に「冥族の面汚しがァ!!」みてーなコト言われてしまい。仲間であるはずの影竜に「妨害乙」とか難癖付けられて食われかける程度のクズです。いやいや、確かにそうかもなーなんて思ったコトはあったんですよ。その魔王サマってば最初に会った時にいきなり最終戦争っぽいシチュエーションでドギマギしてる間に契約書書き換えられたしね! そん時もいきなりボロボロになるし、あん時からナマキズ耐えないし」 「あ、ここ? 毛皮はげてるねー」 「え? いや、そっちはあっつい餅がヘバりついてヤケドしたとこ。……で、これ何?」 テリガンの前で喋っているそれは五十センチほどの巨大モモンガである。 モモンガが何かうにょうにょ動いている。 「うにょにょだよー」 「げっ歯類なら食っちゃうぞ?」 「もんぶだよー、仲間だよー。やーい、クズー」 「聞けよ! ああ、もう。そうだよ。クズでいいよ! 壺中天だって契約取ったと思いきや過去の「記憶」相手に契約取ってどーすんだってリーダーはじめみんなにさんざっぱら笑われるし、こっそり神託とやらを聞きにヴォロスいったら報告書にされてターミナル中に公開されてるし、カンダータでリーダーに戦力外通告されて置いてかれるし、あー、置いてかれるといえば名簿整理の時も置いてかれたっけか! そんなだから魔力不足で大切なロザリオにインクこぼすわ、アクセサリーはロアンに取られるわで散々なんだ。散々といえば契約だってほとんどないんだぞ、おかげで迷宮探索の時だって魔力かつかつだわ、よーやく取れた契約はカンダータ兵士の遊び半分の契約だわ」 「もんぶにおやつをあげる約束をするわ」 「キサとの契約はエクに邪魔されるわでだ! そんな感じなもんだから、黄金に変えられた女どもだって結局助けらんないし、唯一最終目標だった神への復讐心だって揺らいでるんだぞ! あげくの果てには自分から手をあげたインヤンガイの悪魔退治で肝心の悪魔の名前がわかんなくて「あんなもん解けるかー!」って騒いだてたら周りのヤツのほとんどが問題聞いただけで答えやがって……」 なんか途中で変な言葉が入ったような気がするが興奮したテリガンの言葉は止まらない。 目の前でさっきのモモンガこともんぶが神と和やかに談笑してて、自分一人で勝手に喋ってる状況にされたっていうのはあえて自覚しないことにする。 すう。 はあ。 深呼吸。 「で、その結果が響いたのか今回のこの待遇ですよ。任務が待機? あはは、待機だね! 待機くらいできるさ! ……皆まで言うな、待機さえできなかったよ!」 というわけで、待機命令を破って外出どころか、インヤンガイまで乗り込んでいる。 「いやぁ、天界じゃあ第三位。戦車の輪を司り、神の玉座の二つ名を持つ「座天使」の階級に居たってのに、堕ちたもんだね!」 「あ、椅子になる? 俺はいいよー」 まさに神であるところのエウダイモニクが、指でちょんちょんと地面を指差す。 椅子になれということか。いや、確かに座天使は神の玉座だし。 「にゃははははっ!」 唐突にテリガンが笑い出した。 数秒、朗らかに笑ってから一気に黙り込む、 「……ふざけんな」 再び顔をあげた時、テリガンは大粒の涙を浮かべており、全力で帽子を地面へと叩きつける。 「ドイツもコイツも、オイラのコト、バカにしやがってぇぇぇぇッ!! ああ、笑えよ、笑ってみやがれ! 笑ったヤツから片っ端に蜂の巣ツバメの巣にしてっからなァァァ!!」 「あーーーっはっはっはっはっはっ!!!!」 腹を抱えこちらを指差して全力で笑った神をショットガンで穴だらけにして、後ろを振り返る。 「あ、ついでに契約書にサインするといいよ、テメーらの分まで暴れてくるから!!」 「契約したら願いを叶えてくれるの?」 「お?」 怒りに任せて怒鳴り散らしたのに契約への反応があった。 契約のチャンスかもと勇んでみるものの、その反応の相手がモモンガのぬいぐるみなので、どうしていいか戸惑う。 一応、モノは試しといつもの営業トーク。 「あ、ああ。一応。でも契約相手を強化するお願い内容じゃないとダメなんだ。代償は相応のモノなら何でもいいけど」 「それじゃあ、おやつのプリンあげるからもんぶを魔法少女にして~」 「魔法少女?」 どっちかというと魔法少女の横にいるマスコット的な立ち位置の見た目である。 うにょうにょ動いていて、どうも魔法少女というよりは教育番組の人形に近い気はするが。 その教育番組向けの人形みたいな存在は拳に力をこめて力説している。 「もちろん、ただのプリンじゃないよ、その筋の職人が作った百年に一度のキセキと呼ばれる物凄いプリンなんだよー」 「え、そうなの? それなら魂こもってて価値ありそうかな。あ、でも、商標登録『百年の一度のキセキ』ってオチはナシだよ?」 「テリガンくん」 冗談交じりに言ったテリガンの目をまっすぐ見つめ、もんぶは真正面から顔を近づける。 「もんぶ達はここに暴霊を退治しにきたんだよ。さぁ、何してるの。早く行こう!」 「……つまり、オチはそれだったんだな」 ミ☆ ミ★ ミ☆ ミ★ ミ☆ ミ★ 「いやー凄かったなー。閉じ込められた時はどうしようかと思ったけど、ゼノくんが技術力ッスーとか言ってあけちゃうし。ああ、でもあんなのが襲ってくるとはなー。怖かったよな、迫り来る無数のリベルを振り切ってのバンジージャンプ! そしてその後のファミレス利きドリンクバー大会!」 「無数のリベルさんなんていたッスか?」 「はっはっはっ、そんな感じって話だから気にするな。汝に罪なし!」 明るく笑う一柱と一匹。 ショットガンで撃ち抜かれて穴だらけのエウダイモニクと、ツナギ着用のメカニック風味の犬獣人のコンビである。 和やかな二人の会話だが、霊的に不安定なゾーンに土足で踏み込んで内輪話で爆笑する空気のシカトっぷり。 暴霊はどこかいなと見渡すまでもなく、周囲に漂う怨嗟の声。 クローンだろうが、本物だろうが、どちらにしろ通常の人間なら怨念だけで正気を失う程の濃密な悪意。 「おおー、壮観、壮観。ははははー。よーし、汝ら迷えるプチ・マトンとかミニ・ラムどもよー」 「食う気満々ッスね!」 「ついでに犬よー」 「そんな、俺も食う気ッスか!?」 「骨ばってそうだなぁ」 「本気ッスね! それはともかく、そいじゃ悪霊退治、始めるっすよー」 ゼノは荷物の中から「パック」を取り出す。 「え、なに、君、もしかして本気で暴霊退治しにきてたの?」 「それはちょっとヒドいッス……。このパックを試す最高の機会ッスよ!!」 ――説明しよう。パックとは、ゼノくん特性の銅製おむつである。 「違うッス。俺のいた世界ではパワードアーマーってのに乗って戦闘するもんで、まぁ細かい説明は省くッスけど、1700mmの小型パワードアーマーッス。んで、このパックってのはそれを目的に応じて特化させる付属装備ッス。っつーわけで組み立てるんでちょっと待ってて欲しいッス」 「うっわすげぇじゃん。何々、今から組み立てんの?」 「……だって、そのままじゃ持ち運びできなかったッスよ」 基本、特別の許可がある場合を除いて異世界に持ち込める荷物はトランクひとつ分である。 アリッサが館長になってからわりとゆるゆるに許可が通るものの、許可なしではそれ以上は運べない。 当然、待機を命じられているこの一行に許可など出るはずもなく、苦肉の策としてパワードアーマーをバラして運ぶという手段に出た。 本人曰く、マッドサイエンティストらしく十数分で組み上げ、今回のための特性"除霊"パックを換装する。 「この装備の凄い所はッスね」 「あ。その辺の説明いいから。だって長々と説明しても女の子ウケしないし」 「ここ、技術者の花舞台ッス!」 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ■はた迷惑な変態技術者・ゼノの乗機「ワイルドカード」の装備“除霊パック” 壱番世界のとあるアーケードゲームが行った製薬会社とのコラボキャンペーンに着想を得て開発した装備パック。 霊的存在以外への攻撃力は無い。たぶん。 ・装甲:聖水コーティング装甲 装甲表面を聖水でコーティングすることで、霊的存在が機体内部に侵入すること自体を阻む。要するに霊的存在に搭乗者が憑依されないための保険。 ・主力兵装:除霊噴射器 "ゴーストジェット" 聖水を霧状に噴射する除霊用の武器。 どこかで見た殺虫剤のような缶型バックパックから、火炎放射器を改造した噴射器へ聖水を供給し霧状噴射を行う。 ・補助兵装:除霊グレネード"ゴーストレッド" 燻蒸除霊剤。発射から数秒後に霧状の聖水を噴霧する。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ……以上が、空に浮かんだ仕様書。 間違ってはいない。間違ってはいないのだが。 「これでいい?」 今から説明しようとしていた新作の詳細スペックを、自分が言う前に空にびっしり書かれた技術者は、ドヤ顔の神に無言でゴーストジェットを吹き付ける。 顔に聖水を浴びせられて、わざとらしく「がーん」と口で呟いた後、エウダイモニクは力なくよよよと泣き崩れた。 「そんな! 俺が何をしたというんだ! 技術者の仕様書には手をくわえずそのまま出すのが礼儀だろう」 「……そういえば、神にはチェーンソーがよく効くって聞いたッス。今度、チェーンソー特化パックを作ってみるのも面白そうッスね」 「あ、それな。開幕一番で真っ二つにされたことあるぞ。うさぎに」 「うさぎ?」 ミ☆ ミ★ ミ☆ ミ★ ミ☆ ミ★ 暴霊の支配地域では気を抜くとあっという間に襲われる。 例えば体を乗っ取られた狂人、例えば心霊現象。 あるいは暴霊そのものの直接的な精神攻撃。 かた、かた、かた。 乾いた音がして、30cmほどの白磁の人形が歩き回る。 無機質な瞳は己の標的を見定め、動くはずのない腕があがる。 「はいたーっち!!☆」 差し出された手に勢いよく、モモンガの手が打ち付けられた。 こっちはぬいぐるみなので勢い良くハイタッチしようが何だろうが、特に音は鳴らない。 「わーい、遂にもんぶが自由に遊び回っていい日が来たんだね! みんなをもんぶの虜にしちゃうぞ☆」 呪われた人形。 区画を壊滅せしめた呪詛人形。 それが、もんぶことモモンガのぬいぐるみに抱っこされたまま、ぶんぶんと振り回されている。 「ねぇねぇ。ここは廃墟みたいなもんなの? じゃあここにいるバケモノを全部倒せば、もんぶ達が乗っ取って別荘地にしてもいいんだね! やったー!」 確かにこの人形には意思がある。 が、意思があろうかなかろうが話しかけた上で返事を待たないもんぶは両手をあげて踊るように喜んでいた。 一拍おいて。 コアである人形に触れたもの。――まぁ、この場合、ももんがのぬいぐるみ。 それを呪うため、暴霊が人形を中心に渦を巻く。 「死霊を生産するだなんて非生産的だと思うんだよねー、だからさー、もっと有意義なものを生産すればいいと思うんだよー、魚肉ソーセージとかさー」 濃密な霊力は物理力を伴い、あちこちから派手なラップ音が響く。 廃墟のようなビル群を霊圧だけで弾き飛ばす程の怨嗟。これがメイライ・ガーデンの暴霊の実力である。 もんぶを中心に黒い影が立ちこめた。 「よーし、もんぶのオルガンで「自分を饅頭だと思い込んじゃう」催眠術をかけるよー。あ、ちなみに味方にももんぶにもかかるから、色々と気を付けてねー。耳栓いる?」 どう見ても丸めたティッシュを自分の手の中に人形の耳に強引に押し込んでいく。 「あ」 強引すぎて首がもげ、床に転がる。 合図だったのだろう。もんぶを取り巻く悪意は瞬時に殺意へと変わり、重なりすぎた怨念が空間を黒く切り取った。 モモンガの姿がその暗黒に飲み込まれる。 ぶぉん、と機械音がした。 「ヒャッハー! 悪霊は消毒ッスー!!」 ゼノが黒い空間に聖水をバラまく。 聖水の効果か、暴霊に取り込まれた空間からモモンガの足がチラリと見える。別にセクシーではない。 「置いて起動させるだけで後は楽ちん、そんな新兵器、ゴーストレッドをお試しあれ!……ッス」 置いて。というかスイッチをいれて暗黒空間にゴーストレッドを投げ入れる。 黒い絨毯に見えるほどのゴキブリの群れの中央に殺虫剤をおけばこうなるだろう、とばかりに、暴霊が粉々になって四散した。 わさわさわさわさわさわさ わさわさわさわさわさわさ 「うわー、気持ち悪い」 「もんぶ君、さっきそれに取り込まれてたッスよ」 「うん。ねちょねちょしてた。いやー、てっきりもんぶはこしあんの水気が多いんだとばっかり思ってたよ。って、何それ。メカ? うーわーメカだ!メカだ!かっこいいー!! ねーねー、もんぶにも何か作って~。空を飛べるようなハイテクな靴とか作ってよ~! もふもふな靴がいいな! もふもふなメカなんてなんか新しいじゃん! おかしも食べたい。そうだ、もふもふなクッキーの靴をもんぶに作ってよ」 「なんでこしあんなんスか。あと色々、つっこみ追いつかないッス!」 「あ。つぶあん派だった? もんぶ、別にどっちでもいいけど。じゃあ、スポンジ巻いて原子炉作ってよ。百人乗った写真をメディアに乗っけて炎上しても大丈夫な感じの」 「何を言っているのかわかんないッス」 「で、あそこで孤軍奮闘してるテリガンくんにぶつけるの」 ミ☆ ミ★ ミ☆ ミ★ ミ☆ ミ★ もんぶの指したところではテリガンが一人だけシリアスモードだった。 無数に湧き出る暴霊に対し、空間にやはり無数の銃器を召還してひたすらにぶっぱなす。 「……ちっ。コイツらどんだけ沸いてくるんだー!!」 これまでに契約で得た魔力は元々残量がピンチである。 そんな折に怒りに我を忘れて怒鳴り散らした挙句、駆け出してみたら暴霊に取り囲まれた。 このままではインヤンガイの暴霊のラインナップに悪魔猫だか天使猫だかが一匹くわわってしまう。 そういうしょうもない終わり方をすると鼻で笑いそうなヤツラを思い浮かべ「こなくそー!!!!」と奮戦中だった。 霊、霊、霊、魚肉ソーセージ、霊、霊、魚肉ソーセージ、霊、霊、霊、霊、魚肉ソーセージ。 テリガンの操る銃器は次々に暴霊と魚肉ソーセージを射抜いていく。 いらんもんを射抜いているのは分かる。超分かる。 でも、暴霊の数が多すぎて怒鳴ってるヒマもない。暇もないのに魚肉ソーセージが時々、こっちに向かって飛んでくる。 「わー、テリガンくんってすごーい。次はチクワと鉄アレイ一緒に投げてみようよー」 「死ぬッスよ!? ここはゴーストジェットロングを試してみるッス」 てーい。っとゼノがノズルを引くと、遠距離にも関わらずスプレーから噴射された霧が飛ぶ。 テリガンごとあたりに聖水がバラまかれ、さながら聖水のミストシャワーだ。 やがて、霧の中から聞こえ続けていた銃声が途絶えた。 そのまま一秒、二秒。 「……あれ、反応がなさすぎッスね。堕天使にも聖水って効くンスかね?」 ぼそっとしたゼノの呟き。 霧が答えのように、霧が晴れるとその中央でテリガンの腕とその背後にある無数の銃器がゼノに銃口を向けていた。 「聖なる光とか十字架使ってもムダでーす。だってオイラ悪魔だけど元天使だもん! そこのマッド犬、コッチに向けて聖水投げ付けてんじゃねェぞゴルァァ!!」 「もんぶだよー♪」 「話を聞けー! もにゅっとしてる謎ももんがに癒されてなんかたまるか悪魔の罠だろどうせさァ!!」 「もんぶの罠だもん」 「あ、あの猫の羽根。たしかに悪魔の羽根だけどそこはかとなくなんだかちょっと白っぽいッス」 「うにゃぁぁぁー!!!」 テリガンが叫ぶと、つっこみの代わりに背後に浮かぶ銃器がゼノともんぶを目掛けて発砲する。 実体弾の中、爆風が舞い上げた塵に反射してキラっと光る光線が見えた。途端、ゼノが興奮する。 「うっひょー。レーザーッスね! レーザーッスね! 収束光! 出力は何ッスか!?」 なんかヤケに興奮しているゼノと、うにょー! うにょー! っと鼻歌交じりにテリガンの放つ銃弾やレーザーの群れを掻い潜るモモンガ。 やがて、ひとつ、ふたつと中に浮かぶ銃器の群れが姿を消しはじめ、数分ほどの全力掃射が終わるとテリガンはぽてっと地面に倒れた。 「……。あーあ、今までの契約分の魔力、全部使い切っちゃった……」 「じゃあ、もんぶを魔法少女にー」 「そのクダリはさっきやったッスよー」 「うううううう、オイラ、なんでこんなヤツラと同じよーなクズ扱いうけてんの……」 なんだか談笑しているゼノともんぶを見ていると哀しくなり、テリガンは羽根で顔を隠してめそめそと涙を流した。 ミ☆ ミ★ ミ☆ ミ★ ミ☆ ミ★ 「おーい、見回り終わったぞー。見て、見て、館長見つけた」 「館長?」 「ええと、違う時空間の俺が館長を探しにここらへん来ててさー。んで、俺が探し出したわけ。ほら」 エウダイモニクが差し出したのは人形。 さきほど、もんぶが持っていた少女の人形である。インヤンガイではちょっと名の知れた呪われた存在である。 その呪われた存在は何が哀しいのか頬には涙を流したような痕跡があった。 「こいつをエバくんと名づけた。神直々の命名だ。幸あれー。んで、こいつが今から館長。はい、決まり。みんな、こいつが館長だ。いいな?」 「いぇーい」 「今、絶対意味もなく返事したッスよね?」 なんかテンション高く返事したもんぶ。 「でも、そんなのを館長にしてどうするッスか?」 「これでリベルが私に足を向けて寝れなくしてやる。つまり立って寝るのだ!」 「はーい。もんぶはねー。逆さまで寝るのがいいと思うな! 蝙蝠! 耳に綿が偏るけど!」 「はっはっはっ、それいいな、罪なし!」 和気藹々と談笑する三人。 めそめそ泣いてるテリガン。 四人を取り囲む暴霊の群れはじわじわと距離を詰めてきている。 「はーい。一番、もんぶ! 右耳に綿、偏らせるよー!」 「じゃあ、二番、俺。右耳にあんこ偏らせます」 「なんであんこなんスか?」 「え、だって俺、饅頭だし」 そんなやりとりをテリガンは耳を塞いで目をそむけ見ない聞かないとぶつぶつ呟く。 (つっこまないぞ、つっこまないぞ。つっこんだから負けだってオイラ知ってるぞ) だから、なんで饅頭なんだとか気にしてはいけないのだ。 そうだ、今、自分達はインヤンガイにいる。目的は暴霊を退治することではないのか。 クズとか言われた過去を完全に忘れて、少なくともここらへん一帯を浄化してしまえば、 少なくとも自分だけは多少マシな使命感があると世界図書館の連中や仲間達にも示しが付く。 (よし、まだ立ち上がるぞ) 涙をごしごし袖で拭いてテリガンは立ち上がる。 「オイラ、かつては神の右手に座することを許された座天使じゃないか」 ぐっと大地を踏みしめる。 「じゃあ、もんぶは頭に座するー♪」 力を振り絞って立ち上がったテリガンに声援が送られる。 エウダイモニ君の頭の上に座ったもんぶからだ。ももんがはテリガンの方を見て無邪気に手を振っていた。 「俺は遠慮しとくッスよー」 「うわぁん、やっぱり神様なんて大っ嫌いだ。ええい、来るな構うな近寄るなー!!」 ゼノを差し置いて、テリガンは再び涙を流して暴れ始める。 「えー、でもなぁ。そろそろ暴霊を始末しとかないと進行に差し障りが出るし。じゃあ特別サービス。饅頭の背中に座する権利、いる?」 「いらないやぁぁぁい!!!!!」 テリガンが放つ銃弾のひとつが神の眉間を貫いた。 ぶわっと噴き出す血のような何かの液体。 エウダイモニクは液体に手をふれ、しげしげと見つめた。突如、記憶が蘇る。 「うわ、なにこれ。あんこ? いや、あんこじゃない!? ……そ、そうか。今、目覚めたぞ。俺、たぶん、神だ。饅頭じゃなくてエウダイモニ君だ!」 「神、だと…?」 エウダイモニクの言葉に反応する。 さっき散々、あっちの悪魔猫が言ってたじゃないッスかと言うゼノのつっこみは聞き入れられなかったようだ。 もんぶが己の手を見つめるエウダイモニクに手をつきつける。 「はっ、もしや貴様」 一歩後ずさりするもんぶ、神はニヤリと不敵に笑う。 「うにょにょもんぶと言ったか、また闇のゲートに堕としてやろう……」 「なんで、いきなり二人して口調まで変わってるッスか」 もんぶとエウダイモニクの間にばしっと雷が走る。 緊張が実体化し、物理的現象を引き起こしたのだ。 もんぶがももんがの体を震わせて指を突きつける。 「貴様、嘗て我を闇のゲートに堕とそうとした破壊神グスヴァド・エムイビル・ハエフェリルだな。ここで会ったが一万年と二千年前、積年の恨みを今こそ……」 「あ、違うぞ。俺は饅頭こと唯一神エウダイモニクだけど」 「え、違うの?ならいいやー。じゃあ神の力でこの場所を遊園地にして~」 「はっはっはっ、罪なーし」 ミ☆ ミ★ ミ☆ ミ★ ミ☆ ミ★ 「そういうわけで神タイムだ。俺これが終わったらまた(密)告るんだ……」 「何をチクるんスか」 「それは秘密だ。さぁ、行くぞ、このエウダイモニ君の必殺技のひとつ。『何のてらいもなく人気のある人のネタをパクる』シリーズ! うおおおおおおおおおおおお、巨大化するのですー!!!!」 エウダイモニクはその宣言の通り、ずんずんと体積を増していく。 やがて、周囲にある高層ビルに匹敵する程に巨大化すると、神はその右手を差し出した。乗れ、ということらしい。 「説明しよう! 君たちは我に乗り込みシンクロし神ェーガーを操作するのだ!」 「おお、こういう展開は好きッス。実はメカだったんスね!」 「もんぶもー、もんぶのおっぱいもおっきくしてー」 「うううう」 コクピット(自称)こと、頭の上に適当に放り投げられ、三人は巨大化した神の頭の上で周囲を見渡す。 三人が乗り込んだ巨大なエウダイモニクは「えいえい」と言いながら、足元の暴霊を踏み潰していた。 「ううう、オイラ、もう展開についてけない……」 笑い声と破壊音とゼノの「すっげぇース!」の感嘆符ともんぶの「うにょー」が交錯する中、テリガンはめそめそと泣き続ける。 やがて、笑い声が頭上の三人に向けられた。 「おーい、感動的なことに神ェーガーに自我が芽生えたぞ!」 「アンタ、元から自我あったじゃないッスか」 「そうだ。神はこれより君たちを取り込み暴走する! くらえインヤンガイバスター! インヤンガイ破壊爆弾の原理を応用し指向性を持たせることによりピンポイントかつ威力向上を実現した! おもしろ度もUPだ。死ね暴霊どもめ!」 ぼかーん。 「おっと富裕層のビルを壊してしまった。よくあるよくある」 「いや、たしかに良くあるッスけど! あんまりやっちゃダメッス!」 「いやね、何かもう。あんま無理して倒すのやめよっかなって。どうせまたすぐ沸くし」 「巨大化して踏み潰しながら、何を言い出すんスか!?」 「じゃあ、もんぶがやるー。もんぶを巨大化させてー!」 ミ☆ ミ★ ミ☆ ミ★ ミ☆ ミ★ ミ★ ミ☆ ミ★ ミ☆ ミ★ ミ☆ ロストレイルが0世界へと舞い戻る。 結局、廃墟を瓦礫の山に変え、暴霊もロクに退治せずに暴れ回っていたところ、気がついたら暴霊がいなくなっていた。 暴霊がいなくなったので特にやることもなく、もんぶ鍋の作り方を相談しながら0世界への期間を果たす。 ターミナルについたロストレイルから一歩踏み出すと同時に世界司書に連行されてしまった。 四人まとめて放りこまれた部屋には、ちょっと前に見慣れた「クズ」の皆さんの顔ぶれ。 ――クズ扱い続行。 真っ先にテリガンが膝から崩れ落ちた。 「……オ、オイラ、無罪だぁぁ!!!」 「よしよし、汝に罪なし」 「アンタに言ってんじゃねぇぇぇ!!!!」 「もんぶ鍋は、いちご味噌味がいいと思うなぁ」 「今度はどうやって逃げるッスかねぇ」 「キャー! 今気付いたらけど人外だらけー! 大変だ、我々はモフトピアに来てしまった様だぞ……! こんだけ獣率が高いんだからインヤンガイだろうがワンニャンガイだろうが知ったことか!」 「何で今更そんなの言い出すんだよう……」 「扉も、これ、鍵じゃなくてただの鉄板ッスね」 うにょ……。うにょ……。 うにょ……。うにょ……。 うにょ……。うにょ……。 「何で歩くときにそんな効果音が出るんッスか」 「もんぶだからだよー」 「ううう……。オイラ、お腹すいたよう」 「じゃあ、俺の顔を食べなよ。饅頭だ」 「やめてぇぇぇ」 「もんぶの尻尾食べる?」 「食べないやい!」 扉を調べていたゼノがニヤリと笑みを浮かべる。 「……ははーん、この扉のここがポイントッスね。ここをどうにかすれば開くかも知れないッス……」 「わーい、じゃあ、お外ー、お外ー。みんなー、もんぶと一緒にー」 振り返る。 しくしく泣いているテリガンを除き、クズの皆さんがニヤリと笑っていた。 「今度はターミナルで思いっきり『遊びに』行こーー!!!!」 「「「「「「「「「「おおおーーーーーーーーーーーー」」」」」」」」」」
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