クリエイター近江(wrbx5113)
管理番号1154-22505 オファー日2013-02-27(水) 21:29

オファーPC メアリベル(ctbv7210)ツーリスト 女 7歳 殺人鬼/グース・ハンプス

<ノベル>

 ――誰が、コマドリを殺したの?



 ――「もちろん、メアリ!」とメアリベル







 マザーグース・ガーデンの広い道の真ん中に女の子がひとり
 くるくる廻る女の子 おすましおすまし 優雅にぺこり
 砂糖とスパイスと素敵なもの?
 いいえ、いいえ。その子の中身は殺意と魔性と素敵な悲鳴
 懐かしい故郷の懐かしい風景 女の子はとても嬉しそう
 山も川も木も道も マザーグース・ガーデンの草一本にいたるまでメアリベルの帰りを歓迎しない
 同胞殺しのメアリベル、彼女の帰りを歓迎しない

 だけどメアリベルは元気な子
 おしゃまにスカート調えて 優雅にお空に一礼をする
「ただいま!」
 大きな声でご挨拶
 けれども、返事はありません
「ただいま!!」
 さっきよりも大きな声でご挨拶
 それでも、返事はありません


 メアリベルは村の中を歩きます
「誰もいないの? ふぅん……」
 メアリベルにはわかります。彼女を伺う怯えた視線
 こっちにくるな、こっちにくるな、祈りの声まで聞こえてきそう
 背中がぞくぞく震えるメアリ 思わず口元にっこにこ

 息を殺して不敵な微笑、抜き足差し足忍び足
 馬小屋の影で立ち止まり、去ったフリして1、2、3
 三つ数えて、こんにちは。ごきげんようと顔を出したメアリベル
「わぁ!」と叫んだ男の子。一目散に逃げていく
 なぁんだ、やっぱりいるじゃない。だけども、どうして逃げちゃうの?
「わかった。メアリと隠れんぼだね! メアリが鬼だよ。さあ行くよ!」

 メアリベルは追いかける 追いかけられた男の子 冷や汗浮かべてどっきどき
 悲鳴をあげて走るボロキレ、一目散に逃げるカタツムリ
 子犬の尻尾みたいに忙しく両足を動かして、戸棚の中に隠れちゃう

 とんとんとん
 とんとんとん
 お返事してよ
 とんとんとん

 ノックをしても、返事はこない。
「ねぇ、ミスタ・リジー? それとも笛吹きの子のミスタ・トム? 大泥棒のミスタ・タフィかな? 誰でもいいや。久しぶりに帰ってきたよ。メアリは帰ってきたんだよ! 今、あなたの扉の前にいるよ。ねぇ、この戸を開けてよミスタ。メアリと一緒に遊ぼうよ?」
 小さな小さな扉の前
 干草置き場の小さな小屋の、とっても小さな戸棚の扉の前
 今は男の子が入っています。ガタガタ震える涙目の、哀れなボロキレが入っています
 小さな指で扉を押さえ、来るな来るなと嗚咽声
 扉に手をかけ力をいれて、かたかた震える扉をこじあけて、暗くて狭い戸棚を覗きこみ、にっこり笑顔でご挨拶
 こんばんは、泣き虫のぼうや。お名前は? 教えてくれないの? それじゃあミスタ、ミスタの干草、とても素敵ね。メアリにちょうだい?

「あげる! あげる! 僕は知ってる、君の事! 聞いた事がある、グース・ハンプス!! その子の中身は殺意と魔性と酷い悲鳴。死と冗談と笑い声、このガーデン一の殺人鬼、同胞殺しのメアリベル! 干草だったら好きなだけあげる! だから僕を殺さないで。僕の唄を取らないで!」
「ええ、そうよ。知っていたのねとっても光栄! メアリと遊ぼう、干草のぼうや。怯えなくても大丈夫、メアリは遊びたいだけだから。あのね、メアリはとても機嫌がいいの。長い夢を見ていたの。夢の世界は0世界っていうんだよ、そこは色んな人がいて、色んな冒険が待っていた。そこでいっぱい遊んでいてね、けれどもメアリは帰ってきたよ」
「ああ、メアリベル、メアリベル!! 王様の軍隊に囲まれて、リジーを殺した時と同じ数の41発の大砲の弾でバラバラになって死んだんじゃ?」
「あれれ、そういうことになってるの? いいよ、それで。バラバラになって死んじゃった? うんうん、なかなか素敵じゃない? ミスタも一緒にどうかしら?」
 くすくす笑うメアリベル
 干草小屋の男の子、内臓を冬の湖のように凍えさせまたまた逃げ出す 走り出す
「また逃げるの? メアリから逃げちゃうの? ううん、メアリは知ってるよ。男の子って好きな子に意地悪するんでしょ? だから、遊んでくれなくっても逃げようとしてもメアリは全然哀しくないよ。もしかしてメアリが好きなの? 一緒に遊ぼう? 一緒に遊ぼう? 一緒に遊ぼう? あははははははははははっ!!!!」
 逃げる男の子の襟首を掴んで、軽く引っ張っただけでもすぐ転んじゃう
 どうして逃げるの? 全然早くない足で? 遊ぶだけだよ? ミスタのご機嫌いかがかしら?
 あらあらお顔が情けない。涙だけならいいけれど、ヨダレとハナミズいただけない!
 でもいいのよ、気にしないで。メアリは機嫌がいいんだもの
 ガーデンに帰ってこれて、ミスタに遊んでもらえるの。これでご機嫌、にこにこだよね!
 さあ、唄いましょう。歌いましょう、うたいましょう!
 この世界を楽しみましょう 一緒に楽しく歌いましょう メアリはあの歌が歌いたいわ
 伴奏してよ、1、2、3。メアリがミスタに唄ってあげる。ミスタの悲鳴のコーラスで!


―― There was a little boy and a little girl lived in an alley

 メアリベルが取り出した斧が男の子の首筋を薄く切る
 喉元からけぷっと水音 悲鳴をあげる喉はもうない 代わりにぷしゅっと血飛沫吹いた
 噴水のようにはあがりません ぶしゅうぶしゅうと息するように何度も何度も吹き出ます
 ぼうやが何かを言おうとしても ぶくぶく喉から血糊が泡立つ こぽこぽ喉からよだれが垂れる

―― Says the little boy to the little girl, Shall I, oh, shall I?

 助けて、助けて、助けて、たすけて、たすけて、タスケテ、タスケテ
 オネガイだから、お願いダカラ、僕の唄を取らないで、殺さないでころさないでコロサナイデコロサナイデ
 男の子の声はどんどん小さくなっていきます
 メアリの両手は真っ赤です。お顔も真っ赤、照れたように真っ赤、ホントは返り血で真っ赤っ赤

―― Says the little girl to the little boy, What shall we do ?

 どうしてほしいの? バラバラがいいかしら? ぐちゃぐちゃなのがいいかしら?
 頭は残してほしい? 目はくり抜くのと縫い付けるのとどっちが好み?
 かわいいお腹は決めているのよ、中のぐちょぐちょくりぬいてメアリのバックにしてあげる!
 お鼻とお耳はどうしよう? 削いでもいいけど可愛くないわ! ああ、ミスタに何をしてあげようかしら?

―― Says the little boy to the little girl,

 おねがい おねがい オネガイ オネガイ
 せめて 楽に 殺してほしい
 喉が痛いよ 頭がぐらぐらするよ 体が冷たくなってきたよ
 僕のお腹はバックじゃないよ 目鼻も耳もこのままにしてよ
 ねぇ、メアリベル。同胞殺しのメアリベル。このまま殺されるくらいなら

―― I will "kill" you!

 干草の男の子はメアリベルに手を伸ばし、メアリベルの斧を掴みます
 鋭い瞳で睨みます ああ、メアリベル、メアリベル、同胞殺しのメアリベル 友達のカタキ、リジーのカタキ
 ジョージィの、フェル先生の、ベティの、ジョニーの、ウェールズ人のタフィーの……
 小さな男の子の最後の勇気、小さな体で振り絞った大きな勇気にメアリの斧が落ちました 勇気を示すしかめた眉の間に落ちました
 小さな手はぷるぷる震え、小さな体も動きます。びくんびくんと痙攣し、やがて口からげふっと泡を吐き出します

「違うわよ? ミスタの唄の最後はこう。キミにキッスをしてあげる(I will "kiss" you!) 間違えないでね、失礼だもの。だってもうメアリの唄よ!」


 とーん、と斧が弧を描いた
 メアリの斧が弧を描いた
 転がる首、最後の血、最後の悲鳴、最後の唄
 血に染まった干草は、もうお昼寝を唄わない 男の子はもう泣かない 男の子はもう泣けない もう もう もう

 あはははははははははははははははははははははは
 メアリベルは笑います 笑い声はマザーグース・ガーデンに響きます
「もしもし、何かありましたか? ……ひぃっ」
 真っ赤なメアリベル 真っ赤なメアリベル 干草の彼の血で真っ赤
 悲鳴をあげたのは不幸な子 たまたま見ちゃった不幸な子 逃げ出している不幸な子
 この子は元々不幸だった。何度もお母さんに殺されて、何度もお父さんに食べられて、テーブルの下にいた兄弟達に骨を埋められている女の子。
 今日もまた殺される
 今度は唄を盗まれる
 メアリベルに出会ってしまったから

 斧がぶぅんと唸りを上げて

 またひとつ
 メアリベルの唄が増えた
 またひとつ
 メアリベルは忘れられなくなった!
 可愛い笑顔のメアリベル 嬉しそうなメアリベル 同胞殺しのメアリベル

「ただいま! ただいま、みんな! 出ておいでよミスタ、出ておいでよミセス。
 あ、ジョージィ・ポージィだ! 女の子にキスして泣かせる天才! メアリはミスタと踊ったんだよ。知ってる? 知らない?
 知らなくても仕方ないよ、0世界の話だもの。メアリにとっては本当のこと。ミスタのエスコートは上手だったよ! もう一回、メアリの手を取ってくれる?
 メアリはミスタともう一回、手を繋ぎたいと思っているよ。そうだ、今度は真っ二つにする前に手だけ斧でちょん斬ってメアリのお部屋に飾ろうか。枯れたお花の植木鉢の代わりを探していたの!
 王様の軍隊はどこ? 海軍は? リジーはもっと殺されたいでしょう?
 何人でもいいのよ、遊んで頂戴! メアリは遊んで欲しいのよ!
 フェル先生? ねぇ、先生? どうしてハンプティ・ダンプティはおっこちたの?
 どうして、メアリが落とすまで待っててくれなかったの? どうしてお返事してくれないの? メアリが先生を殺したから?
 でもいいの、メアリは許してあげる、あげる、あげる! だって、みんなみーんなみぃぃんな!!!
 あはははっ! ただいま! ただいま、マザーグース・ガーデンのみんな!
 そこの騎士のミスタ。その槍でメアリを突いて! お礼にキスしてあげる! その首ちょんって斬って、メアリの両手で持ってキスしてあげる!
 この退屈なマザーグースガーデンにみんなの血でお絵描きしよう! 今日の晩御飯は目玉の串焼きだよ! 食べる人になる? 食べられる人になる!?
 ミセスの腸で縄跳びするの、王様の軍隊から隠れんぼするの、そうだ、あの子の戸棚に隠れよう。ああ、でもミスタの足はつっかえ棒になるかなぁ?
 役に立たなくても捨てたりしないわ、そうだわ、足でボールを打つの。新しいスポーツよ。何をボールにしようかしら? 頭はちょっとありきたり?
 目玉は小さいし、心臓はぐちょぐちょしてるし、ううん、ミスタの体は足で打たれるのに向いてないよ?
 そうだ。かくれんぼの時につっかえ棒にしよう! あれれ? どっかで聞いたような? まぁいいよね。
 だって楽しいもの。でも血のお化粧は赤いばかりでつまらないよね。ミスタ・ハンプの黄身で黄色でどうかなぁ?
 あははははは、ねぇ、お化粧ごっこは楽しいよ! 楽しいよね! みんな、隠れてないで出てきてよ、遊ぼうよ。
 メアリと一緒に遊ぼう、バラバラになって遊ぼう! 大砲でメアリを撃ってもいいよ! 一緒にぐちゃぐちゃになろう!?
 looby, looby, looby! 踊ろうよ! looby, looby, light. 遊ぼうよ! looby, looby, looby!!
 ちょっと右手を斬ってみよう、ちょっと左手もいでみよう、頭をぐるっと一回ししてぼろっと落ちたらキスしてあげる!」










「なぁんて、ね?」
 立ち上がった拍子にベッドの下に卵が落ちた。
 落ちたのは勿論、ミスタ・ハンプ。
 潰れたミスタ・ハンプの中身はぐちゃぐちゃ、掃除に時間がかかりそう
 西瓜みたいに赤くない 柘榴みたいに赤くない 血だまりのように赤くない
 君にキッスはしたいけど 黄身にキッスはしたくない
 逸らした視線の先には窓で、窓の向こうは世界図書館。
「ただいま、みんな。……なぁんて、嘘だよ。メアリは今、0世界にいるの」

 メアリベルは小さく笑った
 小さく小さくご挨拶。小さく小さくサヨウナラ。

 誰に向けたサヨナラかって?


 ――そんなの 誰にもわからない

クリエイターコメント「イメージソングだけでプラノベ書きます」
この無茶にノってくださったメアリベル様
そして、他にオファーをいただけた皆様、ありがとうございます。

一通り聞かせていただきまして、一番、心に残った。
……と、言うか、こびりついた曲をチョイスされたメアリベル様のプラノベを書かせていただきました。

まずは曲の感想から・・・。
ってか、怖いよ! 怖いですよ!?
真夜中に聞きましたよ、直前に聞いた曲が明るいJPOPだったもんだから、
っていうか、この歌声がものすごく無機質で怖い怖い怖い怖いー。

と、思ったのですが、オファーのあった曲を全て聴いた後、
つい、クチから出たのがこの曲のサビでした。

そこで、この曲とメアリベル様の過去ノベルから思いついたのが、こういうお話でした。

「俺はカレーを注文したつもりが、お化け屋敷のアルバイトを斡旋された」並の勘違いかも知れませんが、
書いている俺自身はとっても楽しかったです。機会がありましたらまた書かせてくださいませ(ぺこり)

[追記]
曲については近江側ではバラしませんが、メアリベル様がご自身で公開なさる分には近江は一切構いません。
公開日時2013-03-21(木) 21:20

 

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