オープニング

 シド・ビスタークに一枚の書類が提出された。『導きの書』を呼んでいた彼はサングラスの横から書類を見て
「あぁ、レビトーサ地方は今依頼を止めてるんだ、すまんが後日改めて依頼を出してくれ」
 無言で書類が戻され、小さな違和感を感じたシドが顔を動かし依頼人――リリイ・ハムレットを見ると小さく声を漏らした。大柄なシドを見上げるリリイは何も言わず、ただ微笑んでいる。
 普通、ダメだと言われたらどうしてなのか聞いてくるものだが、リリイは依頼を出す事に慣れている。だからこういう場合は“自分で依頼を出さなくても、ついでに頼めばいい”事を、よく知っている。
 そうなると困るのが担当の世界司書だ。本来なら依頼されるはずの件が一つ無くなってしまう。リリイは自分のナレッジキューブを減らす事なく依頼が達成され、世界司書はリベルの説教が始まり、チャイ=ブレへの“お話”も一つ減ってしまう。
 タイミングの悪い事にリリイの出した依頼、ブルーインブルーのレビトーサ地方の依頼を出す事になっているシドは、じゃぁな、と一言告げ歩き出すが、リリイはシドの後ろをついていく。切り抜ける良い案は無い物かと考えているシドにリベル・セヴァンが書類を片手に近寄って来た。
「シド、先程のレビトーサの件ですが」
 リベルに任せれば大丈夫だろうとシドがほっとするのも束の間、リベルは書類をシドに手渡すとそのまま話を進めてしまう。
「私と貴方の依頼は同時期の物でした。貝殻を詰んだ船が海魔と海賊に襲われる事に間違いはなさそうです。バラバラに依頼を出すより一度に纏めて依頼を出し、戦力を分散させた方が良さそうで……どうかしましたか」
 眉間に皺を寄せ、空いた手の親指と中指でサングラスを押し上げるシドの後ろからリリイがひょっこりと顔を見せる。小柄なリリイはシドの身体に隠れてリベルに見えなかったようだ。多少なりとも驚いた筈のリベルだが、その表情は変わらない。
「この場合、俺は説教か?」
「勿論」
「おまえの説教はどうするんだ?」
「後で考えます。先に依頼を出しましょう」

 ブルーインブルーへの依頼を見かけた君たちは、リベルの言葉に耳を傾ける。
「皆さんには船の護衛をしていただきます。護衛する船は二隻の大型漁船、皆さん以外の乗組員は各10名、彼らは戦いに参加しません。積荷は大量の貝殻で、貝殻を狙って海魔と海賊船が襲ってきます。前方の船にて海魔と交戦、後方の船にて海賊を迎撃いたします。海魔と交戦していただける皆さんはこのまま、この場にお残り下さい。私が担当させていただきます。海賊の迎撃に対応していただける皆さんはあちらへ、担当者シドより詳しい話を聞いてください」


  ■  ■  ■


 残った人達へのリベルの説明は続く。
「先程説明したように、こちらのチームの皆さんには前方船に乗っていただき海魔討伐に赴いていただきます。海魔は積荷の貝殻を好物としている為、歯はとても大きく鋭いですが少々大きめの只の魚です。……万が一、皆さんの船に積まれている貝殻が全て無くなった場合、海魔は後方の船に向かいます。可能な限り海魔を船に近付けないように交戦し、海魔を追い払うのが得策だと思われますが、方法は皆さんにお任せします」
 書類片手に話すリベルの隣には何故かリリイが座っているが、彼女は何を言うでもなく、微笑んでいる。
「後方より続く船にはシドが担当するもう一つのチームが担当します。同じく貝殻を詰んでいますが種類が違う為か海魔は先にこちらの船を狙う様です。これは地元でも有名な話なのでまず間違いありません。ですが、あちらのチームは海賊船に狙われています。一つの船で海魔と海賊を相手にするより、分散させるべきだと考えた結果、皆さんにお願いする事になりました」
 連絡事項を伝え終えたのか、リベルは全員の顔を確かめるように見渡すが、リリイに目がいくと小さく溜め息を漏らした。
「積荷の貝殻は主に装飾品として使用されており、一部の島々ではこの貝殻で生計を立てているのですが、今回は異様な程海魔による被害が多く被害も甚大です。……こちらにいるリリイも、貝殻が届かなくて困っているとの事です。皆さんの行動で困っている人が助かりますので、どうか、宜しくお願いします」
「ついでに貝殻を少し持ってきてくれると助かるわ」
「依頼は船の護衛と海魔討伐です」
「勿論、ついで、でいいのよ」
 リリイは微笑み、リベルは無表情のままだった。

品目シナリオ 管理番号374
クリエイター桐原 千尋(wcnu9722)
クリエイターコメント こんにちは、桐原です。ブルーインブルーへのお誘いです。

 このノベルは「【仕立屋リリイの発注書】虹色の貝殻」と同時刻となりますので、同じPCさんでの重複参加はご遠慮ください。


 戦闘メインのノベルです。
 どなたでもご参加いただけますが、ノベルの内容により「遠距離、広範囲の攻撃ができる」「海中でも問題無く動ける」という方が参加しやすいと思われます。戦えない方は、戦闘に参加しない変わりにどうやって海魔を遠ざけるか、がポイントになります。


 依頼内容は船の護衛、積荷である貝殻を護る為、海魔と闘っていただきます。海魔については「歯の丈夫なサメが群れで突っ込んでくる」と考えて大丈夫です。
 OP内にあるように、こちらの行動によって後方の船に影響がでる可能性もございます。


 仕立屋リリイは貝殻を欲しがっていますが、皆さんが海魔から船と貝殻を守り通せば、貝殻は彼女の元に届きます。

 それでは、皆様のご参加、おまちしております。


 いってらっしゃい!

参加者
エレナ(czrm2639)ツーリスト 女 9歳 探偵
レナ・フォルトゥス(cawr1092)ツーリスト 女 19歳 大魔導師
アコナイト・アルカロイド(cvnp9432)ツーリスト 女 14歳 妖花
玖郎(cfmr9797)ツーリスト 男 30歳 天狗(あまきつね)

ノベル

 どの動物にしても言えることなのだが、彼らは基本的に群れる場合は同種族だ。同種族の中でも捕食する側とされる側になる事もあるが犬は犬、猫は猫、鳥は鳥、魚は魚で群れを成すのが普通だろう。その中でも更に別けられ雀は雀の、カモメはカモメの群れとなり日々生活し、例え餌があったとしても留鳥の雀と渡り鳥のカモメが共にあるのは、非常に珍しい筈だ。そこに、本来なら天敵である同種族もいるとなれば誰もが口を開け目を丸くするだろうが、幸いな事に鳥達は灯台の上で集まっていた為、住民に見られる事は無かった。
 玖郎はレビトーサの港にある灯台の上で原住民――この場合原住鳥だろうか――の言葉に耳を傾けている。小さい鳥は頭上に座り玖郎の髪の毛を嘴で整え、腕や手に止る鳥達も、ぴちちきゅるると様々な鳴き声で玖郎に語りかける。どの種族であれ、鳥でさえあればその声を理解し、会話が可能な玖郎は
「あの船は戦場になるからはなれておけ。仲間にもよろしくな、気をつけて」
 と、飛び立つ鳥に言葉をかける。ぎゅーいぎゅいぎゅいぴきゅぴきゅと新しく来た鳥が囁けば玖郎は同じ質問をし、鳥達も同じような答えを繰り替えす中視線を港に落すと、あちらこちらへと走り回る一人の少女がいる。洋服が汚れる事も気にせず港にちらばるがらくたの山を漁る少女の姿を玖郎は静かに見つめていた。
――異世界でどれだけおれの力が通用するのか、この機にためしてみよう――
 そう思い依頼を受けた玖郎は一人プラットホームの隅っこにいた。人混みが苦手な彼は自然と端へ、端へと移動しホームの一番奥に辿り着いたのだ。列車に乗れればいい、とそのまま隅にいた玖郎の元に、大きなウサギのぬいぐるみを抱えた少女が駆け寄ってくる。
「こんにちは! あたしはエレナ、こっちはびゃっくんだよ。玖郎……だよね?」
 スカートの端を持ち上げ、丁寧に挨拶をしたエレナはウサギのぬいぐるみにもお辞儀をさせる。その行動や、自分が玖郎であるとどうして知っているのか、何か用かだろうか、と色々考えた玖郎はただ静かに首を傾げた。
「あのね、あたしも貝殻の依頼受けてるの。純白だから玖郎と一緒のチームだよ。それでね、海魔討伐の相談とみんなに、あ、虹色の貝殻の人達もなんだけど、お願いがあるから向こうに集まって貰ってるんだ。玖郎も来てくれる?」 
 玖郎のまねをしたのか、エレナは自分とびゃっくんの首を傾けるが、玖郎も釣られて首を傾げてしまう。あれ?と不思議そうな顔をしたエレナが首を真っ直ぐに戻すと、玖郎も同じように戻す。暫く待っても返事は無く、玖郎の顔を見上げ続け首が痛くなったエレナが首を動かすと玖郎はも同じように首を動かす、という微笑ましい光景が続いた。
「んと、とりあえず向こうで話だけでも聞いてくれるかな? ダメだったらダメでいいんだよ」
 自分の腰ほどの背しかないエレナに手を引かれ玖郎が歩き出すと、エレナは嬉しそうに笑う。玖郎は話しがあるなら今話せばいいと思いエレナの言葉を待っていたのだが、集まって話さないといけないらしい。エレナの行動や言動を玖郎はいまいち理解できないが、来いと言われているのならついて行く。が。
「ねぇねぇ、くぅちゃんとくろちゃん、どっちがいーい?」
 やっぱり意味がわからなくて玖郎は首を傾げた。



「えっと、虹色の貝殻を護る相沢優、陸抗、晦、李、飛龍に、純白の貝殻を護るレナ・フォルトゥス、アコナイト・アルカロイド、玖郎に、エレナだよ。敬称略失礼いたしました」
 エレナがウサギのぬいぐるみと一緒にぺっこりと頭を下げる。名前を呼ばれた面々は返事をしたり簡単な挨拶をしてくれた。この場に集まった人達が友好的であり、協力してくれそうな空気を察したエレナは自然と笑顔になる。
「じゃぁさくさく説明するね。みんなに集まって貰ったのはブルーインブルーに到着してから情報を集めて欲しいんだ。まずジャンクヘヴン、それからレビトーサに行く船の上、最後に船が出る前にレビトーサの三カ所。もちろん、時間があったら、だよ」
「確かに、乗り遅れたら笑えないもんな」
「それで何の情報を集めるんだ? やっぱり貝殻の事?」
 陸の言葉に続き相沢がエレナに問いかけると、晦が煙管キセルをゆらゆらと動かした。未成年者と小さい人に考慮して煙管に火はついていない。
「せやな、こっちの船だけ天候が悪くなるっちゅーんは妙な話やな。貝殻がなんか関係しとるんやろう思うんやけど」
「え? 天候が悪くなるのは貝殻じゃなくて幽霊船じゃないか?」
「なんでここで幽霊船?」
「ほら、幽霊船を装ったオーバーテクノロジーっぽい海賊船の報告書が以前にも出てたじゃないか」
「海賊と化け物の挟み撃ちに幽霊船? どっちにしても襲われる理由は貝殻なんだから情報は集めやすいんじゃない? 分担すれば大丈夫でしょ?」
「どちらもというか、何故同時なのか、という方が俺は気になるな」
 陸と相沢のやり取りを横目にレナが貝殻について話すと、李は別方向の気になるところを口にする。
「とりあえず、貝殻と海賊と幽霊船と鮫の情報を集めるのでいいのかしら? あら? 結局全部?」
 皆が気になる事を言い尽くした辺りでアコナイトが纏めを口にし、気になるキーワード全部について調べるのかと皆を見渡すと風船が揺れた
「それじゃぁ時間が足りないだろうな」
「で」
 それまで無言だった玖郎が一言、言葉を落すと隣に座っているエレナを見下ろす。
「おまえはなにを、調べてほしいんだ?」
「そうね、声を掛けてくれたエレナの意見をまず聞くべきだったわ。ごめんなさいね」
「ううん、みんなの気になることも聞けたから、あたしの意見も纏まったよ。まずね、今回の依頼は別々だけど、一緒に出された事にも意味があると思うの。その事を念頭に置いて、話をするね」
 エレナはそう言うと改めて集まった面々を見渡し、話し始める。
「みんなが言うとおり集めて欲しいのは、貝殻と海賊と幽霊船と海魔の鮫の事、全部なの。でもね、なんでもじゃなくて、それぞれキーワードがあるから順番に行くね。まず虹色の貝殻を知ってるかどうか聞いてね。知っていたらどんな貝殻なのか、天候が悪くなる言い伝えがあるかどうかを、次に虹色と純白の貝殻の共通点を集めて欲しいの。一番知りたいのは取れる場所かな。あ、場所っていうのは地域とか沢山とれる所の特徴っていうの? 岩場とか浅瀬とか、そういう部分ね。次に取り方、簡単に沢山とれるのか、何か必要な道具があるのかどうか、だよ」
 身振り手振りを交えて語るエレナの言葉を、相沢はトラベラーズルノートに書き記す。エレナは相沢のペンが止ったのを確認してから話を続ける。
「次に、その場所で海賊、幽霊船、海魔の出現があるかどうかだよ」
 エレナがそう言うと、あ、と声を漏らす者がいた。まさか、という顔をする者や、未だ気がつけず不思議そうな顔をする者達の前でエレナはこう続けた。
「残念だけど、あたしじゃ大人はきちんとお話してくれないと思うんだ。旅人の外套の効果があったとしても、あたしは子供だから。でもね虹色の貝殻がどうして狙われているのか、どうして純白の貝殻を狙う海魔の被害が“異様なほど”出てるのか。いままでだって被害はあったはずだよ? だけど今回は“導きの書”に現れる程の被害で、その原因がどこかにある筈なの。あたしはその原因も知りたい。解決したい。だってそうしないと、これからもずっと困ってる人は困ったままでしょ?」
 


 こつこつと仮面や頬を嘴で突かれる感触で玖郎は我に返る。エレナに夢中になり話を上の空で聞かれた鳥たちが嫉妬して突きだしたようだ。数匹の鳥が羽ばたき、遠くへ飛んでいくのを玖郎は無言で見上げるが、直ぐに下へと視線を戻す。
 今もエレナが言った物事の意味を玖郎はよく理解していない。彼にとって人の心――特にエレナの探求心は複雑すぎるのだろう。だが、
「なわばりを護るために知略を練るのは、りかいできる」
 エレナの元に集まる人影を見て、玖郎は鳥と共に羽ばたいた。

 


 海の男達は酒と女が大好きだというイメージがあるが、ここレビトーサでもそれは変わらなかった。
「情報を集めたいから人が集まる場所を教えてくれない?」
 レナとアコナイトが数人の船乗りに聞いたところ、そう大きくない島であるレビトーサで一番人が集まるのは小鳥亭だと誰もが言う。酒場であり食堂であり、宿屋でもあるその場所はまだ日が高いというのに赤ら顔の酒臭い男が何人かいた。年若い綺麗な女性が二人――裾の長いフード付きのコートを着込んでいるアコナイトも声やシルエットですぐに女性である事が知られ――あっというまに飲んだくれが寄ってくる。
「おー。昼間っから酒場きちゃいかんぞー、ねーちゃん」
「飲んでるお前に言われたくねぇだろうよ」
「ここは食堂でもあるんだ!」
 店主らしい男性の叫びが空しく響く。レナとアコナイトは茶化され、誤魔化され、セクハラまがいのことをされる割に質問をしてもまともな返答がない。
「どうしたらまともにお話してくれるかしらー」
「おいちゃんとお話したいってか、嬉しいこと言ってくれるなおねーちゃん」
「飲み比べに勝ったらおいちゃんなーーーーんでもしゃべるぞーーーー」
 げらげらと下品な笑いに流されるように飲み比べに勝てば情報を貰える事にはなったものの、これから船にのり戦闘する事になるレナはできれば酒など摂取したくない。どうしたものかと考えているとアコナイトは酔っぱらいの前に座りジョッキを手にする。
「勝ったらお話してねー」
「なんだねーちゃん、変わった化粧だな」
「ジャンクヘヴンの流行かー? おーい、酒だ酒ーーー! どんどん持ってこーい!」 
 ただ単におっさん達は話し相手が、若しくはかまってくれる綺麗なお姉ちゃんが欲しかったのだろう。ちょっと飲んでぐでんぐでんになれば話してくれたかもしれない。だが現状はジョッキ片手に平然としてるアコナイトと、倒れそうな男を止めさっさと情報を回収するレナの姿があるだけだ。最初はアコナイトの飲みっぷりにはしゃいでいたおっさんたちも、次第に彼女のペースに飲まれ、どんどんピッチを上げていった。一人、二人と倒れていくが、レナはご丁寧にも彼らが飲み過ぎてぶったおれる前にきちんと話を終わらせている。情報さえ手に入れれば後は酔いつぶれようが寝込もうが自己責任だ。中には飲み比べを辞退し情報をさっさと提供して見学に回った賢い男達もいる。その場にいる全員から情報を手に入れた二人はおっさんが死屍累々と倒れる小鳥亭を後にした。
「悪いわね、飲み比べ任せちゃって」
「いいのよー。わたしお酒に酔わないからー」
 樽で数える程大量の酒を摂取したアコナイトはどこかのんびりとそう言う。彼女にとっては酒もただの水分なのだろう。
 二人がエレナの待つ灯台下に到着すると同時に虹色チームの四人も合流し、灯台の上から玖郎が降りてきた。
「純白の貝殻は海底や海中の壁面にあって、がりがりと削るように取るんですって。たまに、ほんの少しだけ虹色の貝殻が混ざっている事があるんですって」
「で、ここレビトーサに来てる貝殻は殆どが海賊や幽霊船騒ぎで進路変更して集まったみたいよー」
 レナとアコナイトがそういうと、相沢が頷きこう続ける。
「殆ど同じかな。虹色の貝殻に天候に関わる伝承とかはなかったし、取れるのも純白の貝殻に混ざって取れる程度でそれなりに高値がついているみたいだ」
「だが余り流通してないので海賊に狙われる事は今までなかったらしい。換金するのに面倒なんだろう。が、今回の様に虹色の貝殻だけが積荷の船は初めてなんだと」
 決まりか?と李が言うとエレナはにっこりと笑って頷いた。
「ありがとう! これで今回の件は、幽霊船を率いてる海賊が計画的に仕組んだ事だって胸を張って言えるよ! 海魔が“異様なほど”出現するのは、餌である純白の貝殻を追いかけてきたんだね。問題はどうして幽霊船を装う海賊が、そう、“わざわざ騒ぎを起こして一カ所に貝殻を集める”なんて事までして虹色の貝殻を欲しがるかなんだけど……これはみんなが海賊を捕まえれば、わかる事だよね」
 小さな探偵の言葉に、虹色の貝殻を護る四人の男は力強く頷いた。
 
 




 船上にいるのはレナとローブを脱いだアコナイト、ぬいぐるみを抱えるエレナに帆柱の上にいる玖郎。後はエレナがと港で集めたガラクタの山があるだけだ。危険だからと説明をし、船員は船内に退避して貰った。玖郎が言うには今日一日風が止む事は無いそうだ。実際風が止みそうな気配は全くなく、船は前進し続けている。万が一、何か最悪の場合が訪れた時はエレナが舵を取る事になっている。
 レナがサーチアイの魔法で海魔が来るのを見張っていると、黒い影が見えだした。一つの点のような影は次第にぽつぽつと増え、他の点と繋がり一つの塊になる。ざんざんと波をかき分け船が進む程その影は大きく膨らむ。
「来たわね」
 サーチアイを解除し、レナは速度を速める魔法ヘイストと攻撃力強化の魔法パワースペルを唱え仲間に施す。大きな影が通り過ぎ、帆柱から玖郎が飛び立ったのを確認したレナは進行方向前方、丁度船の両サイドを護る魔法を設置する準備にとりかかる。
「出動だよびゃっくん!」
 肉眼でも魚影が確認できるとエレナは抱えていたぬいぐるみを手放した。エレナの声に反応しウサギのぬいぐるみの目が光ると、びゃっくんはメカびゃっくんに進化、もとい変化しエレナが支えなくとも自立、自動歩行するロボットになった。メカびゃっくんがエレナが港で集めたガラクタを掴み船の前方へ投げ出すと、アコナイトも長い蔦でガラクタを絡め取り前方へと投げ込む。
「小さくて軽いからわたしも投げるわねー」
 ぽいぽいぽいぽいと投げるガラクタは全て金属製のパイプの様な物、だ。そこにめがけて一閃の光が空から海へと繋がりドン、と腹の底に響くような雷音が、続いてぴしゃん、と聞いているだけで痺れるような雷音がいくつも連続に、時に重なりながら鳴り響く。玖郎は海魔の群れのど真ん中へと雷を一つ落す。息絶える海魔と痺れ動けない海魔を置き去りに二つ、三つに別れ増えた群れも同様に、群れの中心を狙いより多く海魔の数を減らしていく。玖郎の雷は海面に近い海魔に命中するとその身体から海水を伝わり、海中にいる海魔にも響いていく。更に投げ込まれた金属片が避雷針のように海水奥深くへと伝え、海面には次々と白い腹を見せる海魔が浮かんでくる。
「ファイアーボール! エアカッター! プリズムフラッシュ!」
 大きな群れから別れる群れは、レナが狙い撃ちにする。止むことなく詠唱を続け、放たれる魔法の雨の隙間を通り抜ける海魔はあそこに美味しい物があるんだと速度を速め船に向かって直進するが、船に辿り着く前に焼け焦げる。レナは手薄な場所をわざと作り、先程船の両脇に設置した護る魔法、魔法陣の中だけ高熱地獄にするオーブントースターを通るようにしていたのだ。
 空からの落雷、深い海中にも伝わるように投げられた金属片と魔法の雨、唯一通れそうな道筋は高熱地獄の待つ罠、それだけの事をしても船に近寄る海魔が数匹はいる。――しかし
「はーい、お仕事お仕事ー」
 ぱすっと小さな音が聞こえる。ほんの少しでもアコナイトの蔦に刺された海魔は船の直ぐ傍まできてぷかりと切なく浮いた。海魔の数が多くとも手際よく、見事な連携プレーを披露した四人が海魔を追い払うのは、数刻後の事だった。
 


 船から遠ざかっていく魚の姿をレナは魔法で確認する。逃げたと思わせ、隙をついてまた攻撃を仕掛けてくるのではと警戒をしたのだが、その心配もなさそうだ。魚影は遠く遠くへと逃げていき、レナの魔法でも確認できなくなった。
 空中を舞っていた玖郎が大きく身体をひねり船の方を向くが、船に戻ってくる気配がない。じっと船の様子を伺うように構えている姿を見て、アコナイトとエレナが船から身体を乗り出し後方を覗くと、霧の中にぴったりと寄り添うように並ぶ二つの船がなんとか確認できた。四人は直ぐにでも援護に向かおうとしたが、虹色の貝殻を積んだ船から海賊船がゆっくりと離れだしたので、少し様子を伺うことにする。へたに近づいて船がぶつかりでもしたら目も当てられない。
 ぼちゃんぼちゃんといろんな物が落ちる音が聞こえ、海賊船から爆音と黒煙があがりちらちらと赤い炎が見えだす。海賊船が傾き沈む振動は四人が乗る船にも伝わりだしゆらゆらと揺れ出した。ふいに玖郎が大きく翼を動かし強い風を巻き起こす。後方の船と沈む海賊船の向こう、一瞬だけ薄くなった霧の中に小さな船が見えたが、直ぐに濃い霧に包まれ、見えなくなった。
 じっと後方の船を見るエレナの肩にぽんと手が置かれる。エレナが顔を上げると、もう大丈夫、と言うようにレナは微笑み、玖郎が帆柱の上に降り立つのが見えた。アコナイトが手を振るように蔦を大きく揺らすと、それに返事をするように後方の船で両手を大きく動かす人影と風船が揺れていた。



「貴方達のお陰で無事貝殻は届いたわ。ありがとう」
 仕立屋リリイは深々と頭を下げて礼を言うと、にっこりと微笑んだ。
「純白の貝殻はアクセサリーやボタン等の装飾品に加工するのだけど、小さな欠片は粉にして染色液に混ぜるの。その染色液で布を染めるとこんな風に少し光沢を帯びて染まるの。他にはない、この世で一つだけの布よ。綺麗でしょう?」
 リリイは以前作ったという、君たちが護った純白の貝殻を使い染めた布を見せてくれる。手の形にそって淡く光を放つ布は、渋い色にも高級感を持たせていた。
「これで安心してファッションショウ用に新しい布が作れるわ。そうそう、近いうちにファッションショウをやるのよ。よかったら、貴方達もいらしてね。モデルや舞台設置等の協力も嬉しいけど、見に来てくれるだけでも嬉しいわ。観客のいないファッションショなんて、つまらないでしょう?」
 

クリエイターコメントこんにちは、桐原です。
この度はご参加、ありがとうございました。

同時時間軸ノベルですので、もう一本【虹色の貝殻】と一部内容が繋がっております。よろしければ、そちらもご覧頂けると嬉しいです。


それでは、ご参加ありがとうございました。
公開日時2010-05-24(月) 19:30

 

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