始まりがあれば終わりの時間も来る。 ロストナンバーが不老でも、病や怪我を得ればやはり終わりの時間はやって来る。 それが分かっていたから、最後の時までタルヴィンと2人だけで過ごしたかった。
引きこもってから1年と数カ月が過ぎた。 自分でも2年くらいだろうと思っていたから、それほど感慨は湧かなかった。 猫は家に付くという。 死期を悟ると死体を見せぬために出ていくのだと言う。 猫の彼よりも、自分の方が猫のような行動をしているのがおかしかった。
湖に向かってのんびりと歩く。 そう言えばこの前、チェンバーの中に雨が降った。
虫の声と鳥の声がする。 水があって、緑がある。 今なら彼1人でも、ここで生活できるかもしれない。
いや、それは只のつまらない私の夢想だ。 彼1人で世捨て人のように生きてほしくはない。 私の腕の中の彼はとても温かかった。 彼がまた誰かの温かい腕の中で憩う事を、私は切に願っている。
体内のシリンダーの駆動音が煩い。 頭の中が金属でガンガン殴られているように痛む。 ふと鼻の下に手を当てたら鼻血が出ていた。 何となく笑いたくなった。
湖のほとりで、考えながら手紙を書いた。
どうやら終わりの刻が来たらしい。 今まで本当に楽しかった。 一緒に居てくれたことに、とても感謝している。 私の事は探さなくていい。 いつも心は君の傍に居るから。
ありがとう。 愛している、愛している、愛している…これからの君の生に幸が多からんことを。
トラベラーズノートを閉じて立ち上がり、そのまま湖に倒れ込んだ。
機械の身体は湖底に沈む。 湖面に煌めく光が、とても綺麗だと思った。 |