飛んで！世界遺産：第４ターン

ノベル

　世界図書館のロストナンバーと、シェイムレス・ビィたちとの鬼ごっこは続いていた。

　ローナがやってきたのはグルジア。ムツヘタの文化財として世界遺産に登録されている地域だ。６世紀の修道院が建つ丘からは、ムツヘタの街が一望できる。この街全体が世界遺産であった。
「ここではなかったようですね」
　ローナはもういちど、リストをあらためる。
　世界司書は、ビィたちがあらわれ、図書館の追手が逃した場所を、『導きの書』でつきとめていた。

　シアン・カアン生物圏保護区
　エーランド島南部の農業景観
　イベリア半島の地中海沿岸の岩絵

「ここでないとすると――」

　　＊

「ええと、シ、エ、イときたから、次は……シェイムレス・ビィちゃんの、ム！」
　トラファルガーはガイドブックをめくり、そして、
「タイガージャーンプっ！　飛びます！　飛びます！」

　ムスカウ公園は、ドイツとポーランドにまたがってある、560ヘクタールもの広さをもつ庭園である。かつてこの土地を所有していたドイツの大地主、ヘルマン・フォン・ピュックラー＝ムスカウ侯爵が、本格的な英国式の庭園をドイツにもつくろうと1815年より造園に着手した。
　その精緻にして壮麗な景観が、「人類の創造的才能を表現する傑作」として世界遺産に認定されたのであった。

「タダで世界旅行ってのはいいんだけど。そろそろつかまってくれないかなー」
　花菱 紀虎はそんなことをつぶやきながら、ワゴンでアイスを買っていた。
　余談だがムスカウ公園をつくりあげたピュックラー＝ムスカウ侯爵は、バニラ・イチゴ・チョコの３つの味からなるアイスクリームを発明し、それは今でもピュックラー風アイスと呼ばれているという。
　そのときだ。
　紀虎はリフェルが、そろそろと足音を忍ばせて歩くのを見た。
　ふと目が合ったら、意味ありげな目配せ。
　紀虎ははなにげなく彼の進行方向を見て……そこに目指す獣人と妖精のコンビをみとめて、アイスを吹きそうになった。
　いた。本当にいた。１０００か所の世界遺産のなかから、ついにその場所にたどりついたのだ。
　リフェルが慎重に近づいていく。彼は自身の肉体を分解できる。そしてその瞬間、致命的なウィルスを放出するのだ。確実に、相手をしとめることが――
「どっせーぇぇえぇえい！」
　だが彼より早く、そしてはるかに騒々しい勢いで、青海 要がかれらに飛びかかっていた。
「ぎゃーーー！？」
「捕まえたーーーーっ」
「あーっ、ビィちゃん！！」
　要は両手で、ちいさな妖精をむんずと握りしめた。
「コラッ、ビィちゃんを放……」
「ヒャッハーケモノだぁー！　俺だーもふらせてくれー！」
　別の方角から、小竹 卓也がトラファルガーに飛びかかってきた。
「アッー！？」
「もっふもっふ！」
「さあ、もう逃げられないわよ。なにをたくらんでるのか白状なさい」
「誰が言うもんですか！」
「抵抗しようなんて思うなよ？」
　リフェルが言った。
「俺の体内のウィルスはなんでも食い尽くす。おまえなんか、あっという間だ」
「このあたしを脅そうっての？　フンだ。そんなことしたってね、この世界はじきに世界樹に貪り尽くされて滅びるのよ」
「どういう意味よ。それとトルコにいたことと何の関係があるの？」
「植樹の候補地を調べてクランチに報告してたなんて教えてやるもんですか」
「植樹の候補地！？」
「そうよ。『世界樹の苗木』を植える場所はね、その世界のゆたかな『歴史』や、住人が思いを寄せる『自然環境』のある場所がぴったりなのよ。世界樹はその世界の情報を吸収して成長するんですもの。壱番世界の人間ときたら、そんな植樹の候補地にぴったりな場所をわざわざガイドブックにしてくれちゃってるんだわ。お笑いよね～。………………。ハッ。誘導尋問ね！！！卑怯な！！！！！」

　　＊

「――と、いうわけで、壱番世界で世界樹旅団の作戦行動が行われることが判明しました」
　すぐに、世界図書館からの依頼が出た。
「『世界樹の苗木』なるものを、世界遺産のある場所に植えることが敵の目的です。すでに候補地が決定し、敵の部隊は壱番世界を目指しているようです。迎撃を行うべく、目標となった世界遺産の早急な割り出しを、全司書によって試みています。判明次第、広報しますので、どうぞよろしくお願いします」

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